氏名:齊藤 博之

論文題目:地方鉄道のオプション価値測定に関する研究

指導教員:松本 昌二,佐野可寸志,土屋 哲

 近年,道路整備による市街地の郊外化やモータリゼーションの進展などにより,地方鉄道では利用者が減少し,廃業に追い込まれる路線も出ている.公共交通投資・整備の評価は,経済分析(費用便益分析)により行うことが基本である.このとき,消費者余剰により直接的な利用価値を計測して便益とするのが一般的であるが,現在利用していない人が将来に利用する可能性の価値(オプション価値),鉄道を未来の世代のために残しておくことの価値(遺贈価値)など,現在の市場で評価されない価値を考慮せずに評価を行った場合,便益を過小評価してしまう恐れがある.近年,このようなオプション価値などを潜在的に評価するための手法の開発が行なわれてきた.主な手法として,仮想評価法(Contingent Valuation Method, CVM)や表明選択法(Stated Choice Method, SCM)がある.
 CVMは,回答者に支払意思額を直接尋ねて価値を測定する手法である.環境質の価値評価事例を通して環境経済学の分野で研究が蓄積され,国内の交通分野においても地方路線バスや地方鉄道を対象とした研究が行なわれている.一方,SCMはサービスレベルを変化させたプロファイルカードの選択によって価値を測定する手法である.交通分野においては,Geurs(2006)等が,SCMを用いた公共交通の価値測定を試みているが,国内においては事例が存在しない.そこで,本研究では,Geurs(2006)等が開発したSCMによる測定手法を参考に,富山市内の富山ライトレールと富山地方鉄道の不二越・上滝線を対象に,利用者について消費者余剰とオプション価値を測定する.また,非利用者についてもオプション価値を測定する.測定結果から,海外の価値測定,及び国内のCVMによる価値測定との比較を行ない,妥当性を検証することを目的とする.
  SCMによる価値測定の手順は,第1にSCMの設計段階として,消費者余剰に対する質問,オプション価値に対する質問の2種類に分け,鉄道サービスの水準を変化させたプロファイルを設計し,アンケート調査により結果を得る.第2に,調査から得られたデータを用いて,非集計ロジットモデルにより効用を推定する.第3に,得られた各水準の推定結果を用いて,それぞれの価値に対して月額の金額を算出する.
 両沿線の価値の測定結果より,利用者は,消費者余剰350~470円,オプション価値890~1,118円を得た.さらに,非利用者のオプション価値は,1,359~1,411円を得た.また,本研究の結果を海外の既存研究や国内のCVMによる既存研究と比較したところ,オプション価値は近い値となり,概ね妥当な結果が得られた.

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