平林 純一

酸化ビスマスを主成分とする高温ガラス融液と白金の化学反応

松下 和正

 白金およびその合金は融点が1700℃以上と耐熱性が高く、化学的にも不活性であるため溶融用坩堝等に広く応用されている。しかし白金は高温下で酸化鉛あるいは酸化ビスマス(Bi2O3)を含む融液により侵食されることはよく知られている。そこで本研究では、白金とガラス・酸化物融液との界面反応のメカニズムを解明するために、二本の白金電極を用いてBi2O3を含む融液 (20Bi2O3-10BaO-70B2O3・40Bi2O3-10BaO-50B2O3・60Bi2O3-10BaO-30B2O3・100Bi2O3)を直流定電流電気分解(6 mA,900〜1000 ℃, in air)した。その後白金電極と融液の界面をEPMAにより反射電子像およびマッピング分析、定性分析により界面の状態、生成物の同定を行った。その結果以下のことが明らかになった。
【定電流電気分解による白金電極の侵食】
 白金電極を用いて、Bi2O3を含む融液を定電流電気分解すると、カソード電極では白金とビスマスの合金を生成し電極が侵食された。さらにガラスと大気との界面およびガラス中に白金もしくは酸化白金と思われる黒い物質が生成していた。またアノード電極界面においては電気分解による酸素の発生は示唆されたが、電極は侵食を受けていなかった。しかし稀にアノード電極の一部に白金の剥離が見られた。
【融液の組成変化による白金電極の侵食】
 白金電極を用いて融液の酸化ビスマスの組成を変えて定電流電気分解(6 mA,950 ℃, in air)を行った結果、カソード電極界面の侵食は酸化ビスマスの減少に伴って激しくなっていた。アノード電極では組成変化による侵食の差は見られなかった。またBi2O3の減少に伴って電圧が高くなっていた。
【温度変化による白金電極の侵食】
 白金電極を用いて融液の温度を変えて定電流電気分解(6 mA,900・950・1000 ℃, in air)を行った結果、カソード電極の侵食は温度の上昇に伴って激しくなっていた。アノード電極界面では侵食は見られなかったが、1000 ℃での電気分解ではアノード電極からカソード電極へ方向性を持った黒い物質が確認された。
【白金と酸化ビスマスを含む融液の反応メカニズム】
 以上の結果より融液中のBi2O3の含有量が少ないとき、白金電極と融液との電位差が大きくなりBi3+が主要なキャリアとなりカソード電極で還元され白金電極上で白金と合金を生成し白金を侵食すると考えられる。また同時に電極から溶解したPt2+がキャリアとなっていると考えられる。また酸化ビスマスの含有量が多いとき、白金電極と融液の電位差が小さくなり電極から溶解したPt2+が主なキャリアとなりカソード電極で還元されていると考えられる。Bi3+もキャリアとなってはいるが非常に反応速度が遅いためわずかしか還元されず合金が生成しないと考えられる。白金と融液の反応は融液の電気抵抗が大きく関わっており標準電極電位と密接に関連している。

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