我那覇 康彦

フッ化水素酸とリン酸塩ガラスの反応機構

松下和正

フッ化水素酸がガラスを著しく腐食することは良く知られており、フッ化水素酸中におけるガラスの溶解速度は、ガラス組成によって大きく異なる。しかしながら、ガラス組成と耐フッ化水素酸性に関する系統的な研究はほとんど行われていない。
これまでに本研究室では、フッ化水素酸中にガラスを浸漬させ、浸漬時間に対する重量減少を測定する方法で、各ガラスの耐フッ化水素酸性を評価してきた。ケイ酸塩ガラスの中ではシリカガラスが最も耐性が高いガラスであることを明らかにし、ある種のリン酸塩ガラスは不透明ではあるが、シリカガラスの約5000倍以上の著しく高い耐性を示すことを明らかにした。本研究では、多成分系リン酸塩ガラスをベースに透明な耐フッ化水素酸性ガラスの開発を行った。
 2成分系リン酸塩ガラス、50ZnO‐50P2O5ガラスの溶解速度が47 wt%の高濃度のフッ化水素酸においてはシリカガラスの200分の1であることがわかった。しかし、10 wt%の低濃度のフッ化水素酸においては、50ZnO‐50P2O5ガラスが最も大きい溶解速度を示した。また、ホウ酸塩ガラスはいずれもシリカガラスの10倍以上の溶解速度であり、高い耐フッ化水素酸性が得られないことがわかった。
 標準生成自由エネルギーをもとに各成分酸化物とHFとの反応における自由エネルギー変化を計算した結果、CaO, SiO2はHFとの反応性が高く、ZnO, P2O5は反応性が低いことがわかった。したがって、50ZnO‐50P2O5ガラスは、HFとの反応性が低い成分のみを含んでいるために、高濃度のフッ化水素酸に対して非常に高い耐性を示すということが明らかになった。ホウ酸塩ガラスについては、BF4−の生成によりシリカよりもフッ化水素に対し不安定であることがわかった。
 以上の考察を基に添加成分を調整することで、不透明ではあるが著しく高い耐フッ化水素酸性を持つ、多成分系リン酸塩ガラスの作製に成功した。それらの中で最も高い耐性を持つガラスは、47 wt%のフッ化水素酸に対して、シリカガラスの5000倍もの耐性を示した。さらにこの多成分系リン酸塩ガラスをもとに、発色元素の除去および組成の調整を行うことで、耐フッ化水素酸性を維持しつつ透明であるガラスの開発に成功した。このガラスは、シリカガラスの500倍以上もの高い耐フッ化水素酸性を示した。
 本研究では、標準生成自由エネルギーをもとに考察しているが、速度論的な考察はしていない。今後、温度を変えて反応速度を測定し活性化エネルギーを算出することができれば、速度論的な議論ができると考えられる。

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