酒巻尭史

リン循環システムの構築を目指した下水汚泥焼却灰を原料とするリン酸カルシウム肥料の作成技術の開発

姫野修司 ,小松俊哉

現在、リン鉱石は世界規模の枯渇問題が懸念されているが、利用量の全量を輸入に頼っている日本においては特にリサイクルが求められている資源である。それに対し、下水汚泥焼却灰中にはリン鉱石と同程度のリンが含まれるため、下水汚泥中のリンを有効利用することは循環型社会の形成において重要である。そこで、下水汚泥焼却灰の有効利用とリンの循環利用の観点から、より付加価値の高いリンの有効利用方法として、下水汚泥焼却灰からリン酸カルシウムを作成する技術に注目し,本研究は実下水汚泥焼却灰から「副産リン酸肥料」としてリン酸カルシウムを作成した。さらに,このリン酸カルシウムをリン鉱石の代替と考え,過リン酸石灰の作成実験を行なった。その結果,以下のことが明らかとなった。下水汚泥焼却灰中のT-P2O5含有率が低いとリン酸カルシウム中のC-P2O5含有率が21.2wt%と低くなることがわかった。下水汚泥焼却灰とNaOH溶液を3回反応させることで,抽出液中のP濃度を高めることができ,リン酸カルシウムのC-P2O5含有率を32.0wt%まで高めることができた。P抽出液へのCa(OH)2添加倍率を増やすとP回収率は100%近くまで向上するが,過リン酸石灰を作成するとW-P2O5含有率が低くなることがわかった。これは未反応のCa(OH)2が硫酸と反応し,Ca3(PO4)2と硫酸との反応と競合するためと考えられた。リン鉱石にAl2O3が5wt%以上含有していると,過リン酸石灰のW-P2O5含有率が時間経過とともに減少することがわかった。
このことからT-P2O5含有率が低い下水汚泥焼却灰からもリン酸カルシウムを作成できることがわかった。また,このリン酸カルシウムがリン鉱石の代替として過リン酸石灰の原料となることがわかった。しかし,過リン酸石灰の肥料規格を満たすために未反応Ca(OH)2がリン酸カルシウム中に残らないように添加率を下げる必要があることがわかった。また,妨害元素であるAl含有率を下げる技術が今後必要となることがわかった。
まとめると, 本研究により,下水汚泥焼却灰から「副産リン酸肥料」のC-P2O5含有率の基準をクリアするリン酸カルシウムを作成可能であることがわかった。また,このリン酸カルシウムから「過リン酸石灰」W-P2O5含有率の基準を満たす過リン酸石灰相当品が作成可能であることもわかった。一方でリン酸カルシウム作成にあたっては,析出工程においてCa(OH)2添加倍率が反応等量では,抽出工程において下水汚泥焼却灰から抽出されたPの全量を回収することができなかった。 また,リン酸カルシウムから過リン酸石灰を作成するにあたっては,使用硫酸量が反応等量では不足して十分な化学反応が生じず,W-P2O5含有率を満たすことができないことがわかった。
これらのことから,リン酸カルシウム作成工程,過リン酸石灰作成工程において反応等量では十分化学反応が生じず,これらの反応を阻害する物質の可能性が示唆された。
今後はこれらの定量,除去等の方法について検討する必要がある。

前のページに戻るには"戻るボタン"で戻ってください。