江口 淳
高効率エネルギー回収を目的とした高濃度下水汚泥と稲わらの混合嫌気性消化に関する研究
小松 俊哉, 姫野 修司
地球温暖化や化石資源の枯渇を背景にバイオマスの利活用に注目が集まっている.下水道分野においては嫌気性消化によるエネルギー回収が注目される一方,嫌気性消化は創エネルギー分野であると同時に消化槽の加温や撹拌などエネルギーを消費するプロセスでもあるため,更なる効率的なエネルギー転換が求められる.そこで,本研究においては,進展,普及しつつある汚泥濃縮技術をみこしたTS=5%程度の高濃度下水汚泥と未利用バイオマスである稲わらを用いた混合嫌気性消化の連続実験を行い,その消化特性を把握した.そして,システムの評価として実下水処理場のエネルギーモデルを作成し連続実験から算出したパラメータを代入する事で,エネルギー収支を計上し評価を行った.
連続実験の条件としては中温条件(36℃),高温条件(52℃)それぞれTS=5%の下水汚泥をControlに,水処理を施した稲わらをTS比で1:0.5となるように混合したRun1,酵素処理を施した稲わらを混合したRun2を設定し,消化日数20日として運転した.
運転期間中,安定した運転が可能であり,定常状態におけるメタンガス発生量はControl系と比較して稲わら混合系では中温条件で43〜52%増加し,高温条件では34〜41%増加した.また,両温度域において,水処理系よりも酵素処理系において発生量が増加した.さらに,稲わらのメタン転換率は下水汚泥と同等以上であった.
消化汚泥の性状としては,稲わら混合に伴ってTSは12〜28%,VSは19〜33%増加した.しかし,酵素処理によって固形物の除去率は向上しており,酵素による前処理の有用性が示された.稲わら混合系におけるその他の特徴としては,消化汚泥の上澄み液中の全窒素,アンモニア性窒素の減少が見られた.一方で全リン,溶解性CODは増加したが,生物反応槽に脱離液を返流する場合においても影響は軽微であると考えられた.そして,消化汚泥の脱水性は稲わらを混合する事によって向上した.
これらの実験データを基に実処理場をモデルとしたエネルギー収支を算出した.投入エネルギーの中で大きな割合を占めるのはエネルギーを熱として利用する消化槽の加温エネルギー,消化汚泥を焼却するシナリオにおける焼却エネルギーであったが,高濃度汚泥を基質として用いる事によってそれらのエネルギー量は減少する事が確認された.また,稲わら混合に伴って新たに必要となるエネルギーは微小であり,増加したメタンガスによって容易に相殺するため,エネルギー採算性は向上した.中温条件と高温条件で比較すると,高温条件は消化槽の加温エネルギーが倍増する事に起因して,エネルギー的には不利な結果となった.最終的に最もエネルギー採算性が優れた結果を示したのは中温で酵素処理を施した稲わらを混合した系列において,発生したメタンガスを精製して都市ガス原料とし,消化汚泥をコンポスト化するシナリオであった.回収エネルギーから投入エネルギーを差し引いた余剰エネルギーは稲わらを混合する事で,全ての系で2倍以上となっており,前処理を適切に施した稲わらと高濃度化した下水汚泥による混合嫌気性消化はエネルギー採算性を大幅に向上させる事が確認され,有望なバイオマス利活用方法である事が示された.
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