矢代悠人

嫌気共生培養法と特異的細胞分取技術を用いたメタン生成古細菌の分離・培養

山口隆司

 これまで我々は嫌気共生培養法というメタン生成古細菌 (以下メタン菌) の集積培養法を考案し、適用することで数種の新規なメタン菌を分離・培養することに成功してきた。しかし、その分離過程は非常に長い時間と労力を要するものであった。特に、嫌気共生培養によって得られた集積培養系内に同じ基質を利用するメタン菌が混在している場合がしばしばあり、培養に依存する従来の分離手法では標的のメタン菌のみを純粋分離するのは非常に困難であった。そこで本研究では、なるべく培養を介さずにメタン菌を分離する新たな手法として、フローサイトメトリー (以下FCM) の特異的細胞分取技術を応用した分離手法を提案し、その手法開発を行った。また、本研究の最終目標は新規なメタン菌の分離・培養としているため、嫌気共生培養法と従来の分離手法を併用した分離・培養の試みもあわせて行った。
 新規分離手法を開発するために大別して4つの基礎実験を行い、本手法の実用性を評価した。本手法のコンセプトでもある、メタン菌のF420自家蛍光によってメタン菌を識別できるのかを検証した後、いくつかのメタン菌についてFCM挙動の把握を行った。そしてある2種のメタン菌の混合系を構築し、標的のメタン菌のみを特異的に分取できるかを検証した。最後に、FCMで分取したメタン菌が培養可能であるかを検証した。これらの結果、メタン菌のF420自家蛍光に基づいて特定のメタン菌を識別し、70-95%以上の特異性を持って分取できることが判明した。また、分取したメタン菌を再度培養することは可能であった。以上の結果から、FCMを用いることによってある特定のメタン菌の集積度合いを極めて高めることができ、メタン菌の分離支援技術として有効であることが示された。
 嫌気共生培養法を用いたメタン菌の分離・培養の試みでは、新種レベルで新規なメタン菌、Methanoregula formicicum strain SMSPを分離・培養することに成功した。SMSP株について菌学的特徴を決定し、IJSEMジャーナルに投稿する論文を執筆した。SMSP株はMethanomicrobiales目に属しており、今回Methanoregulaceae科、Methanoregula属を新規に提案した。本研究においても、嫌気共生培養法が新規なメタン菌の卓越した集積培養法であることを強く示唆する結果が得られた。

前のページに戻るには"戻るボタン"で戻ってください。