深代早苗

食品廃棄物を対象とした無加水中温メタン発酵におけるアンモニア蓄積回避技術の検討

山口隆司

 近年、環境に対する負荷の軽減、資源循環型社会の構築に向けて食品廃棄物の減量化、再資源化が世界各地で進められている。現在食品産業および家庭から排出される食品廃棄物は年間約2,000万トン以上である。そのうち約半分を家庭系食品廃棄物が占め、組成が安定していないことから再生利用率が低く、未だ約98%が焼却、埋め立てによって処理されている。そこで、メタン発酵法はバイオガス回収の他にも肥料化等の再利用法よりも厳密な分別を必要としないという特徴を持つことから有効な食品廃棄物処理として注目されている。
 現在メタン発酵の主流方法は湿式発酵法である。廃棄物に希釈水を添加することで流動性を高め、メタン発酵に阻害を与える物質の濃度を低減させることが可能である。しかし大量の処理排水量が発生し、設備容積の増加および後段処理が必要となる。一方、一切の水の添加を行なわない無加水発酵法は、処理排水量の削減および設備容積のコンパクト化を可能とする。しかし、窒素を高濃度に含む廃棄物を処理する際、タンパク質分解によって生じるアンモニアによってメタン発酵が阻害される危険がある。また、湿式発酵法に比べて実績が少ないため知見が少ないといった現状である。
 そこで、本研究では食品廃棄物を対象とした無加水中温メタン発酵法技術の確立を目指し、アンモニア蓄積の回避を目的としたアンモニア・メタン2相式発酵の基礎研究を行なった。リアクターの連続運転、16SrRNAによる微生物系統解析を行ない、pHに着目したアンモニア生成の至適条件を検討した。前培養によってアンモニア生成槽内のアンモニア転換率を70%以上に高めた状態からpHを7、8、9に制御した運転を行なった結果、全てのpH系でアンモニア転換率は低下しつづけた。これは、実験開始時から滞留時間を5日に調整して基質投入を行なったため、加水分解が追いつかず、アンモニア転換率が低下したと示唆された。また、pH制御を安定して行うことが難しく、各pH系でpHの突発的な上昇が起こった。しかし、全てのpH系のアンモニア生成槽内でアミノ酸分解およびアンモニア生成を行なう微生物Peptostreptococcus属が検出された。したがって、これらのアンモニア生成微生物の至適生育環境を整えることによってアンモニア生成効率が向上すると示唆される。また、pH9はアンモニアが解離しやすいpHであり、pH制御を厳密に行うことが可能となればpHを9に制御したアンモニア生成・除去の単槽処理が期待できる。

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