丹羽 秀聡

実環境での耐候性鋼材の腐食と腐食因子の関係に関する研究

岩崎 英治,長井正嗣

近年の国際化の流れや厳しい経済状況の中,自国だけではなく海外でも橋梁を建設する時代を迎えている.それには十分な国際競争力を保持することが必要となり,指標として重要視されるものの1つがコストである.塗装などのメンテナンス費用を含んだライフサイクルコスト(LCC)の選定が建設にあたって必須条件となってきている.LCCを押し上げる原因となっているものの1つに定期的な塗装が挙げられ,塗装に伴う費用の縮減を可能とし,かつミニマムメンテナンスが可能なものが耐候性鋼材である.
鋼材の欠点は腐食による板厚の減少であるが,この耐候性鋼材は鋼材表面に緻密な保護性さびを形成し,鋼材内部への塩分や水分などの腐食因子の侵入を抑制する.この保護性さびの形成には飛来塩分量の影響が大きく,年平均飛来塩分量が0.05mdd(mg/dm2/day)以内であれば耐候性鋼材を使用してよいとされている.また,このような腐食環境では50年後の推定板厚減少量が0.3mm以下になることが知られている.実橋では腐食は一様ではなく,部位によって腐食状態が異なっている.しかし,桁内部に回りこむ飛来塩分や腐食減耗量は実際に橋梁が建設されてからでなければ明らかとはならない.建設前に飛来塩分量や腐食減耗量を推定できるようなシステムが構築されていると耐候性橋梁の普及に寄与できるものと考えられる.そこで,耐候性鋼材が使用されている実橋を対象に,飛来塩分量や付着塩分,さび厚等の腐食因子を計測することによって腐食量との関係の検討を行なった.
その結果は以下の通りである.
・飛来塩分は,観測時期によって変動するが,計測部位による変動は同様の傾向にあることから,橋梁から離れた地点での飛来塩分量から,橋梁の局部的な部位の飛来塩分量は表現可能なように思われる.
・風の卓越方向からの月2.6乗平均風速と月平均飛来塩分には相関関係がある.
・雨水による洗い流しの効果の少ない,曝露試験片の付着塩分とさび厚には,直線関係が見られる.
・1年曝露試験片のさび厚と飛来塩分は一部にばらつきが見られるが,直線関係にある.
・1年曝露試験片の腐食減耗量と平均飛来塩分は直線関係にある.
・1年曝露試験片の腐食減耗量とさび厚には桁外面のばらつきが大きいが直線関係にある.
・実橋と曝露試験片の部位毎のさび厚の大小には違いがあることから,さらに長期間の曝露による検討が必要なように思われる.

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