松永 扶有子

数値解析を用いた中山間地における雪崩ハザードマップの作成

細山田 得三

 日本は本州日本海側を中心とした豪雪地帯において,その人口が全体の約2割を占めている.また,国土の約7割が山林であるため,豪雪地帯でも山間部に集落や建造物が点在している.このような地域では厳冬期から比較的温暖な春先にかけて家屋被害や道路閉鎖など様々な雪崩災害が懸念される.
 雪崩被害を軽減するには運動モデルの構築が重要となる.数値解析により雪崩の運動を再現できれば,その解析結果を防御施設の設計や,ハザードマップ作成に反映させることが期待できる.また,ハザードマップに雪崩の流下経路や到達距離を考慮することができれば,防災上の汎用性が向上する.
 本研究では数値解析によって得られた雪崩の流下経路や到達距離を考慮した雪崩ハザードマップの作成手法について検討した.対象地形は中越地震によって大規模な地形変化が発生した旧山古志村周辺のエリアとし,LPデータより作成した10mメッシュ地形データを用いた.
 運動モデルについては福嶋・大澤の手法を適用した.このモデルは雪崩本体の雪の取り込みや離脱を考慮し,雪崩内の雪量の増減や本体形状の変化に伴う運動エネルギーへの影響を評価することが可能である.また,計算に用いる基礎方程式が単純な常微分方程式で構成されるため,演算時間が短いという利点も有する.しかし,このモデルには多くの仮定条件が含まれ,精査の必要なものも多い.本研究ではハザードマップを作成する上で重要となる到達距離に対する影響が大きなクーロン摩擦係数について,既存の実績統計モデルを参考に精査を図った.
 ハザードマップの作成については等間隔で仮想発生地点を設定し,繰り返し運動シミュレーションを実施することで,雪崩が通過した回数を地形メッシュごとに集計し,この通過頻度によって危険度の評価を行った.その結果最大広がり幅に関する無次元係数の設定により危険エリアが変化することを確認した.また雪崩の最大速度の下限値を設定した場合は,設定しない場合に比べ危険エリアが減少した.
 今後はハザードマップの精度を高めるため,数値解析条件について実績データの収集や,実験などによって精査する必要がある.こういった解析条件を総合的に見直し,運動シミュレーションモデルの精度を高めることができれば,本研究で提案した手法によって作成されるハザードマップの汎用性をより高めることが期待できる.

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