堀越俊寛

浸透によるせん断強度変化を考慮した土構造物の崩壊予測に関する研究

大塚 悟

斜面や河川堤防などの土構造物は,雨水の浸透・河川水位の上昇・地下水位の上昇などに起因する土構造物内部の水分量増加により,せん断強度が低下し崩壊に至る.本解析手法は非定常飽和不飽和浸透流解析(Soil Plus Flow)と剛塑性有限要素法による安定解析を連成させることで,飽和度によるせん断強度変化と浸透流を考慮した安全率が算出可能等の特徴がある.
本解析手法の妥当性を検証するために東京大学で行われた浸透崩壊模型実験(斜面勾配の異なる2ケース)及び土木研究所で行なわれた降雨時斜面崩壊実験の事例解析を行なった.非定常飽和不飽和浸透流解析によって間隙水圧や飽和度分布などの定量的な評価が可能であれば崩壊時刻や崩壊形態が実際の挙動に近い解析解が得られることを確認した.
本解析手法の自然斜面への適用例として平成15年7月に発生した熊本県水俣市宝川内土石流災害について実際の崩壊事例をもとに,実現象のシミュレートを実施した.自然斜面においては,境界条件の設定が複雑であることや,パラメータを調べることが困難である.パラメータの設定については既往の文献を用いたが,求められていない定数や信頼度の低いパラメータについては安全率が崩壊時刻において1.0になるよう逆算した.解析においては凝灰角礫岩の風化特性や同層上部に発達した低強度の粘性土を考慮することにより,今回の崩壊に及ぼす先行降雨の影響を明らかにした.崩壊予測として実斜面へ適用するにはさらに事例解析を積み重ね,適切なパラメータの決定手法の確立が課題である.
本安定解析手法の河川堤防への適用例として平成16年7.13新潟水害で破堤した五十嵐川堤防について実際の崩壊例をもとに,実現象のシミュレートを実施した.破堤箇所の推定地質断面は砂礫層が消失する行き止まり地盤である.解析の結果,提内側基礎のせん断強度を考慮しても地盤にヒービングによる破壊が発生することを数値解析により示した.現地調査によりボイリングが確認されていることから実現象を表現することができた.破堤点は堤防基礎地盤の地質構造が複雑なために,近傍断面では砂質層の連続性のために浸透力によるヒービング破壊は生じない結果となった.このことから3次元効果を考えると,堤防は今回の水害に対して安定である結論が得られ,越流などの浸食が破堤の主原因であることが確認できた.

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