川端 光昭

中山間地域の生活交通についての一考察 −山古志地域を対象として−

佐野 可寸志

中山間地域においては,交通需要が極めて少ないことから,公共交通サービスの低下や廃止が深刻化している.これが,自動車等の私的交通手段を持たない,いわゆる交通弱者にとっては,外出行動の阻害要因となっており,各自治体では,地域住民の「生活の足」を確保することを目的にコミュニティバス導入を図っているところである.しかしながら,コミュニティバスは採算性が低く,公的な外部補助が必要であることや,コミュニティバスを運行すること自体が目的となってしまい,必ずしも住民にとって使いやすいものとは言えない現状がある.そこで本研究では,コミュニティバスの利用実態及び,中山間地域住民の交通行動を調査・分析し,生活交通としてのコミュニティバスの方向性を検討し,山古志地域をモデルとしたサスティナブルな生活交通の提案を行うことを目的とする.
まず,魚沼市を対象に行ったバス交通の利用実態に関する調査から,外出目的ごとに行動回数に顕著な違いが見られ,コミュニティバスの運行コンセプトを明確にすることで,効率的な運行が行える可能性が明らかになった.コンセプトを明確にすることにより利用者,つまり地域住民にとって利用しやすい形態になるものと考えられる.また,新たな運行希望についての意識調査から,公共交通のサービスレベルが低く活動ニーズが顕在化しにくい傾向も確認できた.
次に,平成16年に発生した中越地震からの復興や,急速な過疎化といった多くの問題を抱える山古志地域において,アクティビティアプローチにより,1週間の外出行動調査を実施した.ここで得えられたデータ(ADデータ)をもとに,非集計行動モデルを適用して交通手段選択モデルを構築した.山古志地域住民は,交通手段選択に大きな制約を受けた中で交通行動を行っており,この現状を表現するために個人間で異なるであろう,手段選択肢集合について十分に考慮した.これにより,モデルの適合度は的中率92%,尤度0.72と非常に高いものになった.
これら得られた知見から,山古志地域の新たな生活交通を提案し,ADデータを用いて,山古志地域の将来バス需要の推計を行った.これにより平成40年頃には,現在の半分程度までバス需要が落ち込むことを明らかにした.また構築した交通手段選択モデルを用いてバスのサービス水準を変化させ,バス利用への転換状況を分析したところ,朝夕については,バス利用に転換することを確認した.しかし,バス需要の減少率に変化は見られず,長期的な運行には多くの問題を抱えている.地元住民や企業,さらには民間バス会社との協働が重要となるであろうことを指摘した.

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