狩野美代

変異原性生性能と農薬測定による水道原水の安全性評価

小松俊哉、姫野修司

水道では、平成15年5月に「水質基準の省令」が改正されたことにより、101種の農薬全てが水質管理目標設定項目に位置づけられ、総農薬方式で評価されることとなり、測定する農薬は各地域の水道事業者により選定されているが、選定情報としては農薬流通量しかないのが現状である。また、新潟県は日本有数の稲作地帯であるため農薬流通量が多く、水道原水の水質管理が重要になってくると考えられる。よって、本研究では、農薬が浄水場に流入したと仮定し、農薬原体および生分解代謝物をバイオアッセイの一種であるAmes試験による変異原性生成能(MFP)の評価方法を用いて農薬の安全性評価を行った。また、農薬原体の変異原性も評価した。
 水道原水となる県内河川における農薬の検出実績、農薬流通量などの文献調査に加え、農薬が河川に最も流出する可能性をもつ6月から8月わたり、県内河川および用水路において採水を行い農薬の実測を行った。それらの結果から、浄水場に流入する可能性のある農薬として7種(ジクロルボス、モリネート、ピロキロン、ブロモブチド、フェニトロチオン、イソプロチオラン、メフェナセット)を選定し、農薬7種の変異原性試験を行った。
 生分解試験では、化審法に基づき微生物源として活性汚泥を加えた農薬7種と活性汚泥のみのブランクの8系例とし、同様の条件下で7日間実験を行った。
 最も原体の変異原性が高かった農薬はジクロルボスであった。また、他の農薬が塩素処理されることで変異原性が増加したが、ジクロルボスにおいては低下した。よって、ジクロルボスは浄水場においては変異原前駆物質になりえない農薬と考えられたが、原体の変異原性が高いため、環境水中において注意するべき農薬であることが明らかとなった。
 また、原体MFPおよび生分解代謝物MFPが高かった農薬はピロキロン、フェニトロチオンであり、原体および生分解代謝物の両方において注意すべき農薬であることが考えられた。特にフェニトロチオンは、原体MFPで751 (net rev./mg-C)、生分解代謝物MFPで1998 (net rev./mg-C)と今回用いた農薬の中で最も高い値を示した。また、生分解により数多くの生分解代謝物が生成されることが確認されたことから、変異原前駆物質となっていることが考えられた。さらに、フェニトロチオンは塩素処理により塩素分解性の悪いオキソ体に変化することから、水道水の安全性の面からみると7種の中で最も問題となる農薬であったといえる。
その他4種の農薬は、農薬原体MFPおよび代謝物の両方で原体よりも変異原性強度は上昇したが、変異原性の観点からはさほど問題となる農薬ではないといえる。
浄水においての農薬の評価は塩素処理分解性によるものが多い。しかし、本研究では水道水の安全性という面から見ると塩素分解性だけではなく、変異原性との関係も重要を示すことができた。また、農薬原体のMFPだけでなく生分解代謝物のMFPを調べることで、重要農薬の安全性について多面的に評価することができた。

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