片山 智樹

道路排水モニタリングのための新方式小型採水装置の開発と重金属流出負荷量評価

小松 俊哉,姫野 修司

 近年家庭や事業所などからの公共用水域への汚濁負荷量は減少している一方,自動車由来の雨天時道路排水などノンポイント汚染による環境への負荷が相対的に増大している.しかし,定量化が難しく,実態把握がなされていないのが現状で対策を講じるまでに至っていない.雨天時道路排水に関する既存の研究の多くは初期降雨段階(ファーストフラッシュ)のみで評価しているが,正確な負荷を評価するためには一降雨イベントの全量把握が不可欠である.しかし,全量を採水することは量が膨大で,多大な労力を要するため事実上不可能である.そこで,一定分割を行い,降雨終了までに流出する道路排水を採水可能な小型採水装置の開発を行った.採水装置は道路排水を32分割して採水する仕組みであり,実験室および現場にて性能評価実験を行い,分割性能が良好であることを確認した.本研究ではそれを用いて道路排水に含まれる重金属類を長期的に測定し,降雨データなどの影響を把握し,流出汚濁負荷量を明らかにすることを目的とした.
 採水期間中の全降雨量は798.5mmであり,採水できたのはその約10%の71.0mmであった(N=8,降雨回数では約15%).また,同時に現場付近にて雨水の採水(N=5)も行い,道路排水との比較を行った.道路排水中の重金属類は,Cd,Cr,Pb,Zn,Cuを溶存態,微粒子および懸濁態に分類して測定した.
 水質測定の結果,Cr,Pb,ZnおよびCuは,道路排水中濃度が雨水よりも有意に高く,平均濃度でそれぞれ雨水中濃度の約7.8,5.8,3.9,6.4倍であった.これらの元素は,降雨量との間に負の相関があったため,タイヤなど道路交通や路面からの影響を受けやすく,その後は希釈されていくことが考えられた.
 Pb濃度は,微粒子および微粒子+懸濁態において降雨量が多くなると有意に低くなる傾向が見られた.Pbは5元素の中で最も懸濁態の比率が高く,降雨量が多くなるにつれて濃度が低くなっているため,初期降雨段階に粒子態が優先的に流出することが考えられた.Cr,Znは微粒子,Cuは懸濁態への存在割合が高かった.また,全元素において懸濁態は先行無降雨時間との間に正の相関が見られた.このことからも,道路排水は路面上の堆積物の影響を多く受けていることが示された.
 Znは溶存態にも比較的多く含まれ,負荷量は5元素の中で最大値を示し,トータルおよび溶存態において降雨量が多くなると有意に大きくなった.交通量の多い高速道路などではZnによる汚濁負荷量はさらに大きくなることが考えられる.
 本研究は,雨天時道路排水による年間汚濁負荷量を把握し,対策を講じる流れの中の途中段階の研究と位置付けられる.本装置は試作段階ではあるが,今後実用化に向けて開発を進め,交通量の多い道路にも設置し,年間汚濁負荷量を算出するために有用であると考えられる.それにより明らかになった年間汚濁負荷量をもとに道路排水の対策を講じることが必要であると考えられる.

前のページに戻るには"戻るボタン"で戻ってください。