田村英輔

高温UASBリアクターにおける環境変動時の微生物群集解析

山口隆司

高温嫌気性処理法における環境変動時のプロピオン酸蓄積は多数報告されてきた。しかしながら、プロピオン酸蓄積の原因は未だ明らかではない。近年、高温嫌気環境下のプロピオン酸酸化細菌の単離、挙動及びゲノム解析が行われたが、プロピオン酸蓄積回避法やプロピオン酸酸化促進技術の開発には至っていない。
そこで、高温嫌気性処理法におけるプロピオン酸蓄積の原因となるパラメーターを特定するため、スクロース、酢酸ナトリウム三水和物、プロピオン酸ナトリウム、ペプトンを炭素源とするラボスケールの高温UASBリアクターを運転し、様々な過負荷を与え、処理性能を詳細にモニタリングした。その結果、意図的に10倍負荷で曝露する事で有機酸が蓄積しても、pH低下が起こらなければメタン生成は活発に行われ、定常時の基質に戻す事で即座に定常状態へ戻った。一方、10倍負荷で曝露する事で有機酸が蓄積し、間接的にリアクターpHが5.0程度まで低下するとリアクター内微生物群集はダメージを受け、定常状態の基質に変更後もプロピオン酸の蓄積が長期に渡った。また、低pH期間が長くなる事で微生物群集のダメージは大きくなり、回復必要日数が長くなる事を明らかにした。つまり、処理性能の破綻にはリアクター内pH及びpH低下期間が非常に強く影響するといえる。
そこで、低pH環境下に曝される事で、リアクター内のどの微生物が、どの程度のダメージを受けるのかを明らかにするため、プロピオン酸単独基質で運転している高温UASBリアクターを意図的な低pH環境下に曝し、処理性能の悪化から回復までの微生物群集の変遷を配列特異的SSU rRNA切断法で追った。その結果、プロピオン酸酸化細菌が致命的なダメージを受けている事が分かった。つまり、高温UASBにおけるプロピオン酸蓄積は、有機酸蓄積による間接的なpH低下により、微生物群集の中でもプロピオン酸酸化細菌が致命的なダメージを受ける事が原因であると示唆された。また、回復期間におけるメタン生成速度、処理水中のプロピオン酸濃度から比増殖速度及び倍加時間を算出すると、既報の高温性プロピオン酸酸化細菌の値と同程度であった。この事から、グラニュール汚泥中のプロピオン酸酸化細菌は低pH曝露により死滅するが、定常時の基質に変更すると生き残った菌体が基質を消費しながら増殖するため、定常状態までの回復に長期を要すると考えられる。
 

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