草野真一

実下水処理UASBの処理特性および保持汚泥特性の評価

山口隆司

近年, 実下水へのUASB法の適用が拡大しているが, 温帯域への適用には至っていない。これは水温低下時, SSがUASBに蓄積し, 許容量を超えた時にウォッシュアウトが生じ, システム全体のパフォーマンスを低下させることが懸念される。この対処として汚泥の引抜きが考えられる。しかしながら, UASB実証データは熱帯・亜熱帯地域に偏り, さらにUASBにおける汚泥増減や性状変化に関して, 知見が不足されている。そこで本研究では,温帯域の実下水処理UASB法おける汚泥引抜き等の汚泥管理方法を検討することを目的とし,UASBの通年連続処理を行ない, 季節変動に伴う保持汚泥増減の定量化および汚泥の性状の把握を行った。
本研究は、年間平均水温20.3℃(15 ℃以下の低温期間は80日程度)の条件下で実施された。保持汚泥性状としては、SVIは通年で40〜50 mL/gSSで安定しており、変動は見られなかった。粒径分布も, 通年での変動はなく, UASB全域において粒径0.43〜2.00 mmの粒径汚泥が確認された。このことおり、消化汚泥からのグラニュール形成, 保持が通年で可能であることがわかった。
UASB内のSS濃度およびセルロース濃度は、UASB中部にて、冬季に増加することが確認された。SS蓄積量は、累積の流入SS量の7.1~17%にとどまった。平均SS蓄積増加速度は、冬季0.081 gSS/L-reactor/day、夏季 ?0.029 gSS/L-reactor/dayであった。一方、メタン生成量は, 冬季平均360 gCOD-CH4/day, 夏季平均455 gCOD-CH4/dayとSS蓄積速度の減少に伴い, 上昇傾向を示した。このことから、水温の上昇に伴い蓄積汚泥の自己分解が進行したと考えられた。
SS蓄積量は増加し続け、500日経過後も定常状態には達していない。UASBは更なる許容を示すとともに、ウォッシュアウトを生じる危険性も示唆された。よって、UASB法安定化ための蓄積汚泥引抜きの重要性が示された。蓄積汚泥の引抜きは, (1) 通年でUASB下部においてグラニュールが保持された、(2) UASB中部にてMLSS, セルロース濃度が増加した、 (3) 冬季にてSS蓄積量が増加した, といった実験結果から, 冬季にUASB中部の蓄積汚泥を対象として行うことがウォッシュアウト対策として有効であると結論付けられた。

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