石原茂樹



生物膜型リアクターによるリン除去システムの開発



山口隆司



 余剰汚泥を利用せずに下水からリン回収を行う方法として、密閉型の DHS リアクターを用いたリン回収システムが考案された。密閉槽内にポリリン酸蓄積細菌 ( PAOs ) を保持させ、好気にリンを摂取・蓄積させてリン除去水を得、嫌気において高濃度のリン含有水を放出させてリンを回収する方法である。この方法を用いた実験では、影響因子の最適化が図られておらず、リン摂取・放出において安定した性能にならなかった。そのため、各因子の最適条件を見出す必要があるが、DHS では運転操作状困難である。本研究では、様々な条件を容易に制御できる生物膜リアクターを用い、PAOs の優占化に影響を及ぼし、リンの摂取・放出に最適な条件について検討した。
 本体はビニルチューブで、内径を 5 mm、長さを 3 m ( 容積 0.06 L ) とした。タイマーで嫌気好気条件を交互に繰り返すように制御し、好気時には好気基質及び同量の空気を流し、また嫌気時には密閉タンクに保持した基質を流した。好気基質の組成はリン 5 mgP/L 、硝酸塩 40 mgN/L を主成分とした。嫌気基質の組成はVFA 濃度を 200 mgCOD/L、リン 5 mgP/L 、アンモニア 40 mgN/L を加え嫌気状態に保持した。
 生物学的リン除去では、サイクル時間が短ければ充分なリン摂取・放出を行う時間の不足で、長ければ競合細菌の増殖等により、性能に影響を及ぼす。そこで、4 台のリアクターを同時に動かし、 嫌気好気の 1 サイクル時間を 4、6、8、12 時間で運転した。また、1 サイクル時間を 12、16、18、24 時間でも行い、計 8 回の 7 条件で嫌気好気 1 サイクル時間のリン摂取・放出能への影響を調べた。嫌気と好気の時間比は 1 : 2 とした。HRT を 10 分 ( 360 mL/h ) で運転した。
 12、16 時間サイクルの運転において、リン摂取・放出能が大きく、流入リン濃度 5 mgP/L が流出では嫌気時に 12 mgP/L にまで増加していた。どのサイクルでも嫌気 COD が摂取されていたので、生物膜内に競合細菌が存在していた。他サイクルでは、リン摂取・放出は極少量であった。
 チューブ内汚泥のリン摂取・放出量より、最もリンの摂取・放出量が見られたのは16 時間サイクルで、嫌気に 6.4 mgP/gVSS のリンを放出していた。しかし、16 時間サイクルでさえ全リン含有量は一般的な汚泥と変わりなく、PAOs の存在割合は低いと考えられる。ただし、各チューブ内生物濃度は約 25,000 mgVSS/L であり、DHS も同程度の微生物を保持できるとこから、嫌気に 6.4 mgP/gVSS のリンを放出すると、DHS からのリン含有水のリン濃度は 160 mgP/L となり、リンの高濃度化が可能となる。

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