楠 卓志

有限要素解析における鋼橋のモデル化に関する研究

岩崎 英治

近年の計算機の能力向上と設計・解析ツールの発展は目覚しく,これまで数値解析のネックであった記憶容量や計算時間,データ作成の煩わしさは急速に解消されてきている.そのため,モデルの簡易化を行わない,より実構造物に近いモデルでの解析が可能になりつつある.
しかし,有限要素解析で得られる解は要素分割やモデル化の影響を大きく受ける近似解である.要素分割やモデル化の他にも,有限要素の定式化方法やロッキングの緩和といったFEMソフト固有の性質など,有限要素法の解析精度を左右する因子は多数存在する.既往の研究においても,要素分割やモデル化を細かく変更しての検討は行われた例が少なく,鋼橋上部工の有限要素解析における,要素分割やモデル化の解析精度へ与える影響は不明な点が多い.そのため,有限要素解析でのモデル化の方法,解析結果の評価方法などは一般的な基準が無く,設計実務者にその判断が委ねられており,設計者の裁量に依存する部分が非常に大きい.
そこで本研究では,FEMソフト,有限要素を使用し,「鋼橋上部工を構成する基本的な問題」,「主桁と分配横桁」,「二次部材」について要素分割やモデル化を種々変更した計算を行い,精度の検討を行った.なお,本研究では支点部や補剛材取り付け位置などに発生する局所的な応力は対象にしない.
本研究で得られた結論を要約すると次のようになる.
(1)FEMソフトには面内曲げ問題と面外曲げ問題,シェル要素とソリッド要素それぞれに得意不得意があり,あらかじめ本研究で取り扱ったような単純なモデルについて計算を行い,その特徴を把握しておく必要がある.
(2)隣接する要素長が急激に変化する部分では応力の精度が低下するので,このような要素分割は避ける必要がある.
(3)ウェブとフランジの接続方法によりたわみや発生応力は変化し,本研究で使用したモデルでは,設定した要求精度と同程度の誤差が生じた.
(4)補剛材位置や支点位置に応力が集中する.また,主桁近傍において,分配横桁内の応力は大きく乱れる.全体設計を目的としたFEM解析では,このような応力は対象としないので,応力集中位置から離れた点の応力を参照する必要がある.
(5)分配横桁,端横桁の要素分割が主桁の荷重分配に与える影響は非常に小さい.
(6)中間対傾構による荷重分配効果が確認された.

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