池内新太郎

吸着・光触媒作用を利用した水溶液中の鉛イオン除去

佐藤一則教授

 さまざまな環境における水質中に溶存する有害重金属イオンを回収することは、水質環境浄化の観点で不可欠な環境浄化技術である。特に、近年は運河や湖沼の底質中に存在する有害重金属類が問題となっている。また、最終廃棄物処分場の浸出水における基準値以上の重金属類の存在も大きな問題である。なかでも、鉛は内分泌攪乱性物質の疑いがあり、環境基準も平成5年に0.01 ppmに見直されている。
 本研究では、水質中に低濃度で存在する鉛イオンを捕集するために金属酸化物半導体の光触媒作用に着目した。一般に、光触媒では原理的に太陽光エネルギーを利用して微量の金属イオン捕集が可能である。また、この金属イオン捕集において、化学反応にともなう有害物質生成が起こらない利点がある。一方、イオン交換作用における金属イオン吸着現象は、いくつかの水酸化物において知られている。しかしながら、吸着平衡濃度以下の低い濃度で存在する金属イオンの吸着捕集は行なえない問題がある。したがって、無機イオン交換体における重金属イオンに対する優れた吸着作用と半導体酸化物の光触媒作用による微量鉛イオンの光析出を組み合わせた重金属類の捕集技術の開発を目指した。
 最初に、光触媒として用いられている酸化物による鉛イオン捕集能を検討した。試薬は市販試薬を用いた。吸着実験結果からは各酸化物の顕著な光触媒作用は確認できなかった。すなわち、光照射によって生じた電子による鉛イオンの還元、あるいは正孔による鉛イオンの酸化が、それぞれTiO2表面においては困難なことを示している。標準電極電位はバンドギャップ内に位置しているが、TiO2表面における酸化還元反応はバンドの曲がり、あるいは安定な電子-正孔対の形成が不十分であったと考えられる。溶液の鉛イオン濃度減少量は各酸化物の比表面積に依存し、TiO2-ST01においても単位表面積あたりの吸着量は他の測定試料と比べても多くはなかった。
 次に、いくつかの光触媒酸化物とppmレベルの濃度で水質中に存在する鉛イオンに対する吸着特性に優れた水酸化鉄粒子の混合体の鉛イオン捕集に対する光照射効果を検討した。作製した水酸化鉄粒子は、α-FeOOHとγ-FeOOHからなる2相粒子である。この水酸化鉄粒子と光触媒酸化鉄粒子の複合体から構成される試料粒子に対する鉛イオン吸着能を検討した。吸着実験結果から、わずかの光照射効果は確認できたが、その効果は顕著ではなかった。これは、この水酸化鉄粒子による懸濁状態溶液に対する光透過能の低下、あるいは目的としたα-FeOOH粒子が十分に形成できなかったためと考えられる。しかしながら、微細なα-FeOOH粒子合成と水溶液中における粒子分散能の向上によって、吸着と光析出による微量濃度の鉛イオン捕集に対する可能性を見いだすことができた。

前のページに戻るには"戻るボタン"で戻ってください。