根岸 智明

ガラスとフッ化水素酸の化学反応

松下 和正

フッ化水素を代表とするフッ素系ガス、およびその液体は、ガラスを著しく腐食することが知られている。近年では、エッチングにフッ素系ガスを用いた装置が多く存在する。フッ素系ガスを用いる装置において使用されているガラス部品が、フッ素系ガスにより腐食され消耗してしまう。そこで、フッ素系ガスに腐食されないガラスが望まれている。本研究では、フッ素ガスの代わりにフッ化水素酸を用いて様々なガラス組成を評価した。フッ化水素酸によって腐食される度合いは、ガラス組成によって異なる。しかしながら、各種ガラスとフッ化水素酸との系統的な研究は行われていない。本研究では、フッ化水素酸中にシリカガラス、およびいくつかのケイ酸塩ガラスを浸漬させ、溶解速度を測定し、フッ化水素酸への耐性を評価した。さらに、これらの結果に基づき反応機構を考察した。
シリカガラス、ソーダ石灰ガラス(板ガラス)、アルミノケイ酸塩ガラス、およびホウケイ酸塩ガラスをフッ化水素酸中に浸漬させ、これらのガラスの溶解速度を求めた。全てのHF濃度において、溶解速度は、ソーダ石灰ガラス≒アルミノケイ酸塩ガラス>ホウケイ酸塩ガラス>シリカガラスの順で減少した。ガラス転移温度(Tg)の高いガラスほど、フッ化水素酸に安定であることがわかった。全ての溶解実験結果において、反応時間の経過にともない、ガラスの溶解速度は減少した。これは、ガラス成分が溶液であるフッ化水素酸中に溶解し、溶液中のガラス成分濃度が増加したためと考えた。HF濃度依存性実験において、溶解速度の濃度依存性は、各ガラス種について、全て同じ傾向を示し、さらに、これらの結果からフィッティングを行い、実験式を算出した。
化合物の単結合強度の関係に基づき反応機構を考察し、SiO2を主成分とするガラスとHFの反応の場合、安定なH2Oを生成するため、溶解(腐食)反応が生じると考えた。ガラスとHFとの反応において、化学反応の速度を決める活性化エネルギーが、ガラスの単結合強度に対応し、ガラスの溶解速度を決める目安として、この単結合強度を用いることができた。本研究において、シリカガラスがフッ化水素酸に安定であった理由は、ケイ酸塩ガラスと比較して単結合強度が強いからである。

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