岩見慎也

パルス通電法を用いた無鉛圧電セラミックスの作製と評価

松下和正

現在、エレクトロニクス分野で実用化されている圧電材料の大部分は鉛系強誘電体であるが、有害性が指摘されている酸化鉛を多量に含んでおり、人体への影響や環境保護の観点から問題となっている。近年欧米を中心にその使用が規制の対象となりつつあり、鉛系強誘電体の性能に匹敵し、かつ環境に優しい無鉛圧電材料の開発が急務となっている。強誘電材料BaTiO3は無鉛圧電材料の中では優れた圧電性を有するが、鉛系材料には性能が及ばないうえ、キュリー点が低いことが問題となっている。本研究では有害な酸化鉛を含有しない新しい圧電セラミックスの作製を目的として、BaTiO3のBa2+の一部をほぼ同じイオン半径を有するK+に置換して酸素欠陥を発生させ、結晶格子をさらに歪ませることで圧電性能の向上を試みた。焼結中のKの揮発を抑制するため、焼結法には急速昇温、短時間・低温焼結が可能なパルス通電法を用いた。
焼結後の試料は真空雰囲気での焼結により一部のTi4+が還元されてTi3+に変化し、半導体化した。Ti3+の影響によりいずれの試料も青みがかった灰色に着色した。その後、熱処理を行なうとTi3+はTi4+に戻り、すべての焼結体は白色もしくは薄い茶褐色に変化した。また、K添加量の増加に伴い空隙が発生した。
蛍光X線分析の結果、K含有量と添加量に大きな差は見られず、パルス通電法による焼結によってKの揮発を抑制し、目的の組成にほぼ近い量をBaTiO3に含有させることができた。
X線回折により結晶格子の精密化を行なった。BaTiO3にKを0.5 mol%添加した試料はK無添加の試料と比較するとa軸長さに変化はないがc軸長さが短くなり、結晶格子が本来の正方晶系から立方晶系へと近づいた。これはKが格子中に強引に入り込んだため結晶が密になり、Ti4+の移動範囲を狭くしたために結晶格子が正方晶系から立方晶系へ変化したためと考えられる。1.0 mol%以上Kの添加量をさらに増やしてもa軸長さ、c軸長さはそれ以上変化しなかった。
アルキメデス法により焼結体の密度を測定し、理論密度と比較した。Kを添加した試料は無添加の試料と比較して相対密度が非常に大きくなった。
焼結体の各種圧電特性の測定を行なった。Kを添加した焼結体は格子ひずみが小さくなり、本来BaTiO3が持つ圧電性を失い電歪体になるが、K添加量をさらに増加すると再び圧電性を持った。この理由についてはさらに検討する必要がある。

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