廣瀬智昭

下水汚泥の熱分解ガス改質における反応条件が燃料ガス回収に与える影響

小松俊哉,姫野修司

近年,我が国では地球温暖化の防止および安定的かつ環境負荷の少ないエネルギー供給体制の確立が緊急の課題となっており,化石燃料に変わる新たなエネルギーとして“新エネルギー”への期待が高まっている。そのような中,有機物から燃料ガスを発生させる熱分解ガス改質技術が注目を集めており,本研究では,熱分解ガス改質技術において原料に下水汚泥を用いたシステムに着目した。熱分解ガス改質システムでは,反応条件により回収ガス組成やガス量が大きく変化し,高い熱量をもったガスを効率的に回収するためには,反応条件の調整が必要となってくる。そこで本研究では,熱分解ガス改質技術における炉の設計や反応条件の操作,効率的な反応条件の決定に必要となる基礎的知見を得るために,熱分解温度やガス化剤(酸素,水蒸気)投入量などの反応条件が生成物に与える影響について定量的な把握を行った。
本研究ではまず,下水汚泥の熱分解特性を把握するために熱重量測定を行い,他の原料の熱重量測定結果と比較を行った。その結果,下水汚泥は他の原料と比べ高温でも重量減少が進み,下水汚泥は他の原料よりも高温における熱分解が必要であると示唆された。
次に,ラボスケールの熱分解実験により各反応条件の影響を見た。600℃〜800℃で温度を変化させてその影響を見た結果,熱分解温度の上昇と共に熱分解ガスの発生量および回収熱量は増加する結果となり,さらに高温条件にすることで,回収熱量の向上が可能であることが示唆された。次に水蒸気投入量の影響を見た結果,水蒸気投入量の増加に伴い水性ガス化反応によってH2とCO2の発生量が増加し,回収熱量も増加した。しかし,水蒸気の過剰な投入は回収熱量を低下させる結果となり,800℃の条件ではH2O/C=0.724程度で回収熱量が最も高くなる結果となった。次に酸素投入量が与える影響を見た結果,酸素投入量の増加に伴い部分燃焼によりCOとCO2が増加し,回収熱量も増加した。しかし,酸素の投入が過剰になると,燃焼が活発になることからCOの発生が弱まり回収熱量も減少する結果となった。700℃の運転においては,酸素比を0.3程度で温度を維持することが効果的であると示唆された。そして酸素と水蒸気を併用した際の効果を見た結果,部分燃焼による燃焼熱が水性ガス化反応を促進させH2発生量の増加が見られた。
最後に,実験で得られた熱分解ガスの改質処理後のガス組成を平衡計算による予測を行い,改質処理も考慮して熱分解ガスを評価した。すべての熱分解ガスが改質処理によりH2とCOを主成分とするガスになり回収熱量は増加した。しかし,熱分解条件の違いによる熱分解ガスの回収熱量の差は改質後も殆ど変わらず,熱分解ガス改質システムにおける回収熱量の向上には,熱分解炉での回収熱量の向上が必要であることが分かった。

前のページに戻るには"戻るボタン"で戻ってください。