大嶺誠

下水汚泥焼却灰から作製したリン肥料の肥効性、安全性の実規模での検討

小松俊哉 , 姫野修司

現在、リン(P)は世界規模の枯渇問題から年間利用量の全量を輸入に頼っている日本においては特にリサイクルの促進が重要視されている。それに対し、下水汚泥焼却灰中にはリン鉱石と同程度のPが含まれているため、下水汚泥中のPを有効利用することは循環型社会の形成において重要である。そこで、下水汚泥焼却灰の有効利用とPの循環利用の観点から、より付加価値の高いPの有効利用方法として、下水汚泥焼却灰からリン肥料を作製し、その肥効性,安全性を検討した。特に本研究では実規模である畑でスラグ肥料の肥効性,安全性の検討を目的とした。
まず畑として使用歴のない荒地400m2を選定し、畑を作成した。スラグ肥料の効果をより明確化するために土壌(施肥)条件を5種類、農作物として大根,とうもろこしを選定し、その条件下で各農作物を栽培した。スラグ肥料中の肥効成分や重金属の各農作物への影響を把握するために収穫した各農作物を植物体分析した結果、重金属は元素ごとに異なり、PbやCdは土壌のほうが農作物より多く含有し、CrやNiは農作物のほうが多く含有していた。このことからPbやCdよりCrやNiのほうが農作物に移行しやすく、物質間を移動しやすいことが考えられた。どの土壌で栽培した農作物も食品衛生法許容上限量以下であった。一方で肥効成分は土壌含有量より農作物のほうが多く含有しており、農作物が肥効成分を吸収後、濃縮していることが示唆された。さらに各土壌で農作物中の各成分を比較した結果、Pはほぼ一定となり、大根では1000mg/100g、とうもろこしでは1,700mg/100gとなった。これは各農作物で必要量が決まっており、吸収率や濃縮率を調整して確保するものだと示唆された。
スラグ肥料は重金属を含んでいるため実土壌への蓄積が懸念されていたが、蓄積は元素によって異なったが、一番多く蓄積が確認されたCdでも本研究の使用施肥量で886年は施肥し続けても土壌環境基準を満たせることが分かり、安全性を確認できた。
収穫した各農作物の各測定値が土壌ごとに異なっていたことから、生育に土壌ごとの差はみられたが、肥料による相関はみられなかった。また、さらなるスラグ肥料の有用性のために、収穫した各農作物を全国農業協同組合出荷基準と適合した結果、大根は収穫率が52%でそのうち適合したものは77%、とうもろこしは収穫率が49%でそのうち適合したものは77%であり、有用性は確認できたものの、収穫率の向上が必要であった。以上のことからスラグ肥料は実環境でも適用可能であることが示唆された。

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