井上義康

中温および高温消化による下水汚泥と稲わらの混合メタン発酵に関する研究

小松俊哉,姫野修司

近年,化石燃料の枯渇や地球温暖化対策,循環型社会の形成といった観点から,バイオマスが新エネルギーとして大変注目されている。本研究では,新潟県で発生量が多い農・水産系バイオマスのうち,更なる有効利用方法の推進が求められる稲わらに着目し,混合嫌気性消化法に混合するバイオマス資源とした。嫌気性消化法に稲わらを有機物源として混合することにより,稲わらの有効利用とエネルギー回収量の増大につながるが,一方で消化汚泥残渣も増加させるために,混合する稲わらの可溶化促進が重要になってくる。
また,下水処理場消化施設においては,近年,中温消化に加え,高温消化を採用する処理場も現れてきている。したがって,高温消化における混合嫌気性消化の検討も必要であると考えられる。その場合,固形物分解率やメタン発生量などの消化特性だけではなく,消化汚泥の処理特性やエネルギー面での総合的な評価も重要になってくると考えられる。
そこで,本研究では,稲わらの前処理技術として,酵素可溶化前処理技術を採用し,中温(36℃)および高温(55℃)混合嫌気性消化における消化特性と消化汚泥の処理特性を明らかにするとともに,中温および高温消化における稲わら混合によるシステム全体でのエネルギーバランスを総合的に評価することを目的とした。
まず,稲わらの酵素可溶化効果および中温・高温消化におけるメタン生成能を把握するために,3種類の酵素を用いた稲わらの分解率試験と中温および高温消化汚泥を用いた回分式嫌気性消化実験を行い,効率的な酵素処理条件を明らかにした。次に,この酵素条件を用いて,中温および高温連続式混合嫌気性消化実験を行った。この実験では,メタンガス発生量が稲わらに粉砕のみを施したものよりも粉砕+水処理で,粉砕+水処理よりも粉砕+酵素処理によって増加することが示された。また,稲わらのメタン転換率が最も良かったのは高温消化の稲わらに粉砕+酵素処理を施した系列で,コントロールとの比較よりCODベースで91%が転換したと推察された。溶解性CODはコントロールよりも若干高くなったが,アンモニア性窒素は稲わらの混合比の増加に伴って減少した。なお,消化汚泥の脱水性は稲わらの混合によって向上したが,粘度は逆に悪化する傾向を示した。
最後に,これらの結果をもとに,長岡中央浄化センターをモデルにシステム全体でのエネルギーバランスを総合的に評価した。その結果,稲わらを混合することによって新たに生じるエネルギー投入量は僅かであり,稲わらの混合によるメタン発生量の増加分によって十分に賄えることが明らかとなった。また,本研究の実験条件では投入汚泥濃度を3.5%としたために,高温消化では加温エネルギーに見合うメタン発生量を得ることが出来ず,中温消化の粉砕+酵素処理を施した系列で,最も良い成績を得た。

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