高橋統気

DHSリアクターを用いた下水からのリン回収

大橋晶良

 下水中のリンはリン資源の枯渇の背景から回収が望まれている。その量はリン鉱石輸入量の2割におよぶ。従来の下水からのリン回収法は、曝気や余剰汚泥処理のコストから、実現に至っていなかった。一方、余剰汚泥の発生が極めて少ない下水処理法としてUASB+DHSのシステムが注目されている。しかし、この方法では処理水中のリンは除去されず、リン含有下水処理水が発生する。その処理水は低リン濃度がゆえにリン回収が困難であり、富栄養化の観点からも問題であった。
 そこで、リン含有下水処理水中からリン回収ができないかと、密閉型のDHSリアクターを用いたリン回収システムを考案した。装置内では嫌気・好気が繰り返され、ポリリン酸蓄積細菌 (PAOs) をスポンジに保持している。考案した技術は、好気時にリン含有下水処理水 (UASB+DHS処理水) 中のリンをPAOsがリン摂取・蓄積し、嫌気時に有機性排水を供給しPAOsが蓄積しているリンを放出するものである。結果、リン含有下水処理水はリン除去処理水に、有機性排水はリン高濃度処理水になり、リン回収を行うことができる。
 そこでまず、DHSの模擬的な実験としてPlug flowリアクターを用いて実験を行った。実験は模擬下水処理水と、酢酸を有機性排水を使用した人工排水を利用した。すると、全流量の5%からリン回収する場合、リン回収濃度は58mgP/L (流入の11.5倍)、全体の58%のリンが回収可能であった。このことから、理想的な条件ではリン回収機構として十分に機能することが判明した。
 実下水で本提案技術を行う場合、PAOsの基質の短鎖脂肪酸が不足する。そこで、短鎖脂肪酸の供給源として、初沈汚泥を酸生成させることを検討した。すると、初沈汚泥は全CODの25%程度が短鎖の脂肪酸になることが判明し、PAOsの基質として十分な量の短鎖脂肪酸を供給できることが判明した。
 最後に、初沈の酸生成汚泥を有機源としてDHSを利用したリン回収を試みた。嫌気・好気条件は窒素パージと空気供給により理想的な条件で行うと、全流量の10%からリン回収すると、リン回収濃度31mgP/L (流入の6倍) でリン回収率61%でリン回収可能という結果であった。
前年の住谷らの行った模擬排水を使用したDHSによるリン回収技術と比較すると、Plug flowリアクターの模擬排水の系でリン回収濃度を2倍以上に高めることができ、DHSのの実下水の系で同等またはそれ以上の処理性能を示すことができた。

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