河島 正明

高温UASBリアクターの過負荷による処理性能の破綻と回復

大橋 晶良

 高温UASBリアクターは中温プロセスに比べて2?3倍高いメタン生成活性を有する一方、阻害物質やショックロードなどの環境変動に弱いという難点を持ち、その際生成するプロピオン酸の蓄積が問題点として指摘される。この解決のためにはショックロードに対するリアクターの破綻および自己回復の過程におけるリアクター内の挙動を詳細に知る必要があるが、これらに関する知見は少ない。本研究では、定常状態に運転された高温UASBリアクターを人為的な過負荷環境に暴露させることにより、破綻と回復に至る過程を調査した。

 本研究では実験1?7まで計7回の過負荷実験を行った。定常状態で7.3kgCOD?m-3?d-1で運転した高温UASBリアクターに対し実験1では供給基質のうち有機源であるスクロース、プロピオン酸および酢酸とpH緩衝剤である重炭酸ナトリウムの濃度を定常状態と同じ割合のまま定常時の5倍にあたる35 kgCOD?m-3?d-1の負荷を0.5日暴露した。実験2では同様の割合でさらに10倍にあたる73 kgCOD?m-3?d-1の負荷を0.25日与えた。これらの実験ではpHは低下せず破綻には至らなかった。これらの結果は流入水中の緩衝剤の量が必要十分量あったと考え、実験3では実験2と同様の有機源を加え、重炭酸ナトリウムを定常状態と同じ量まで減量して0.25日暴露した。この実験においてもリアクターのpHは低下しなかった。
 そこで、実験4、5では糖分解によるプロトン発生によるpHの低下を狙い、有機源のうちプロピオン酸、酢酸の量を定常状態時と同量とし、スクロースのみを増量させることにより10倍負荷をそれぞれ1.0日、3.0日暴露した。実験4ではpHは4.95、実験5で4.54まで低下し、COD除去率は14.4%、0.1%まで下降した。暴露終了後、実験4では1.9日目にCOD除去率が80%を超えたが、実験5では16.2日目と回復に長い期間を要し、プロピオン酸の蓄積も確認され、本実験をリアクターの破綻と位置づけた。
 実験6では実験4の結果を受け、あらかじめpHを5.0に調整したプロピオン酸単独基質による10倍負荷を暴露した結果、実験4、5よりも早い処理能の低下を見せた。COD除去率が80%まで回復したのは6.25日目だった。実験7では実験4、5における発生ガス中の水素濃度の挙動を解析し、ふたつの暴露期間の中間の2.0日暴露を同一の基質で行った。実験5で破綻に至るまでの水素の挙動に3段階の区分を見い出し、実験4、5、7での暴露期間に対するCOD除去率の回復日数に直線関係が得られた。

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