川上周司


高感度TSA-FISH法を用いた原核生物の機能遺伝子の検出

大橋晶良

 ポストゲノム、環境ゲノム時代の到来により、環境微生物工学の分野においてもメタゲノム解
析、マイクロアレー解析などが行われるようになってきた。こうした遺伝子網羅的解析を行うこ
とで、対象サンプル内での代謝経路の推定、未培養微生物の生態解明、あるいは有用遺伝子、タ
ンパク質の発掘などが可能になり、これまでのrRNAアプローチでは得る事が困難であった情報
を我々に数多く提供してくれる。今後もこうした解析が盛んに行われていくと予想される。しか
しながら、これら遺伝子網羅的解析から得られる大量の「遺伝子プール」からでは、その全体像
をつかむ事が可能であっても、どの微生物がどの遺伝子を保有しているかといった個々の微生物
における生態を推定することは困難である。こういったことを理解しようとした場合には、得ら
れた遺伝子を標的したin situ かつシングルセルレベルでの解析が有効である。しかしながら、こ
れまでに報告されている遺伝子をin situで検出した技術は少ない。これは、検出感度の不足とい
う問題が遺伝子検出の大きな壁となっているためである。

 本研究では、原核生物の遺伝子を検出する技術の開発を目的とし、酵素触媒反応によるシグナ
ル増幅法であるTyramide Signal Amplification (TSA) 反応を繰り返すことで感度を向上させること
が可能なtwo-pass TSA-FISH法に注目して研究を行った。まず、レポータ基が多数標識できるポリ
ヌクレオチドプローブとtwo-pass TSA-FISH法を組み合わせ、メタン生成古細菌のmcr遺伝子の検
出を試みた。結果,756 bpのポリプローブを用いることで標的微生物を高感度で検出することが
可能であった。また、得られた蛍光は、DNase処理によりDNAを消化する、高いストリンジェン
シー条件下で消光し、遺伝子由来であることがわかった。しかし、特異性があまりないポリプロ
ーブを用いているために、標的微生物とネガティブコントロール微生物を完全に識別して検出す
ることはできなかった。
 次に、特異性が高くかつ設計が容易なオリゴヌクレオチドプローブとtwo-pass TSA-FISH法を組
み合わせ、メタン生成古細菌のmcr遺伝子の検出を試みた。結果、4種のプローブを用いることで
シングルコピーであるM.marupasluids S2のmcr遺伝子の検出に成功した。また、プローブと1~3
ミスマッチであるネガティブコントロール微生物と識別可能であり、得られる蛍光も遺伝子由来
であることがわかった。また、プローブが2種、1種であっても、標的遺伝子を高感度で検出する
ことが可能であった。しかし、検出率は20%程度に留まり、プローブの数が低下するとさらに低
下するものであった。この原因は、抗原抗体反応が良好に進行していないものと考えられる。

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