岡野弘典



バクテリオファージの新規宿主域決定技術の開発

大橋晶良




 従来のファージ宿主域評価法に代わる以下の4つの手順で構成される新規なファージ宿主域評価法を考案し、その開発を試みた。その4つの手順は、(1) 蛍光標識ファージを複合微生物サンプルに投入・感染させ、宿主微生物のみを光らせる、(2) FACS (fluorescence activated cell sorting) 技術を用いて、ファージが感染することで蛍光を発する微生物細胞を特異的に回収する、(3) 回収された微生物細胞からDNAを抽出し、16S rRNA遺伝子配列を決定することで、ファージが感染をした微生物種を推定、(4) クロスチェックとして、回収されてきた微生物細胞の16S rRNAに特異的なDNAプローブをデザインし、先の核酸染色ファージ標識技術と16S rRNAを標的としたFISH (fluorescence in situ hybridization) 法による宿主微生物の2重染色である。

 本手法の開発にあたってモデル系として大腸菌とT4ファージを用いた。まず、手順 (1) と (4) の技術開発ため核酸染色剤で蛍光染色したファージとFISH法によるファージ感染細胞の2重染色の検討を行った。しかしながら、FISH法にファージ感染細胞を供したところ、核酸染色剤が細胞外に漏れ出すという問題が発生した。この問題の解決を試みたが、上手くいかなかった。そこで、核酸染色剤によるファージの標識をあきらめ緑色蛍光タンパク質を頭殻に提示するT4ファージを利用することした。その結果、手順 (1) と (4) を行えることが確認できた。続いて、下水にT4ファージを投入し、FACSを用いてファージ感染細胞を特異的に回収し、16S rRNA遺伝子に基づくクローン解析を行うことで、本手法の4つの手順のすべてを行った。その結果、T4ファージの宿主と考えられてきた大腸菌群が検出された。加えて、大腸菌以外の細菌群にもT4ファージが感染している可能性が示唆された。これらの結果は、提案する新規ファージ宿主域決定技術の有効性を十分に示すものであった。

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