阿部憲一

窒素除去プロセスにおける亜硝酸型硝化を誘導する効果的な因子の探索

大橋晶良




 本研究における当初の目的は、塩分濃度 (Na+濃度) による亜硝酸型硝化の誘導効果を実証することと、塩分濃度の有効範囲を決定することであった。
 pH調整剤にリン酸水素二ナトリウムを用いて亜硝酸型硝化を立ち上げ、その後同程度のNa+濃度になるようにNaCl添加に切り替え、徐々にNaCl濃度を下げていき亜硝酸型硝化の維持が可能な塩分濃度の下限値を明らかにする実験系を組み立てた。しかしながら予測と得られた結果は正反対であり、塩分濃度の低下に伴い完全な亜硝酸型硝化への移行が確認された。この現象は低塩分濃度の実験系、さらには塩分無添加の実験系においても確認されたことで、塩分濃度以外の環境因子が亜硝酸型硝化に強く影響を及ぼしている可能性が示唆された。亜硝酸型硝化が進行していた状態のリアクターに亜硝酸塩のみを基質として供給したところ、速やかに硝酸塩が生成されたことから、高濃度のアンモニア性窒素が亜硝酸型硝化に大きく寄与していたことが強く示唆された。
 高アンモニア濃度により亜硝酸型硝化が誘導されていたことが判明したが、どの程度の濃度で影響を及ぼすかについては不明瞭であったため、アンモニア濃度が亜硝酸型硝化に及ぼす影響を明らかにすることを目的とし、アンモニア流入負荷を段階的にあげていく実験系を組み立てた。また運転温度を3条件に設定することで、温度による影響や遊離アンモニアによる影響についても調査した。この実験結果から、亜硝酸型硝化は遊離アンモニア濃度と最も相関性があることが判明し、遊離アンモニア濃度が亜硝酸型硝化を制御するための有効な指標となりうることが示唆された。
 これらの実験結果をふまえて、亜硝酸型硝化を引き起こさない程度のアンモニア流入負荷で、塩分濃度による亜硝酸型硝化の誘導効果についての検証を行った。人工廃水中のNaCl濃度を段階的に上げて供給したが、最終的には海水と同程度の塩分濃度あったにも関わらず亜硝酸塩の蓄積は確認されなかった。その後、亜硝酸型硝化が進行しうるアンモニア流入負荷に上げたところ、速やかに亜硝酸塩の蓄積が確認されたことから、塩分濃度による亜硝酸型硝化への誘導効果はアンモニア濃度による誘導効果に比べてわずかな影響力しかないことが強く示唆された。
 論文題目の観点からすれば本研究の結論は、塩分濃度による亜硝酸型硝化の誘導効果はほとんど期待できないといった否定的なものであるが、塩分濃度の亜硝酸型硝化の誘導効果に関して賛否両論が議論されている中での本研究の結論は、これまでの報告よりも塩分濃度のみの影響を明らかにしたという点において有意な研究であると考えられる。

前のページに戻るには"戻るボタン"で戻ってください。