正木 守

電気化学的脱塩工法による鉄筋の配置と塩化物イオンの移動に関する検討

指導教員:下村 匠

本研究は,塩害劣化したコンクリートの防食機能回復を目的として用いられる,電気化学的脱塩工法について検討を行ったものである.脱塩工法を適用した場合のコンクリート中に生じる電場特性を把握することは,効率的な脱塩効果を得るために重要である.また,塩分の浸透が構造物の深部にまで及んでいる場合,この部分において抜け残りがあると,再拡散による再劣化が懸念される.そこで本研究では,鉄筋1本が及ぼす電場特性を把握することでの脱塩有効範囲の推定と,鉄筋を2本配置した供試体に脱塩工法を適用した場合の,脱塩効果についての実験的検討を目的とした.また,2003年12月から行っている,脱塩を適用したPC供試体の長期暴露実験の結果についても考察した.
鉄筋1本が及ぼす脱塩有効範囲の推定を目的として,脱塩適用時のコンクリート中の電流・電位分布測定,脱塩処理後の可溶性塩分量の測定を行った.その結果,鉄筋電位の上昇が顕著となり,鉄筋の周辺の電位分布が小さくなることが確認された.しかし,鉄筋から数センチ以上離れた箇所のコンクリート中の電位はほとんど変化しなかった.これは,コンクリート中に存在する塩化物イオンが影響を及ぼしていると考えられる.また,脱塩後の可溶性塩分量を測定した結果,電位勾配が変化した部分(鉄筋位置から直径40 mm〜60 mmの範囲)で概ね初期塩分量の50 %以下まで減少していることが確認された.これらより,コンクリート中の電位分布を測定することで,脱塩有効範囲を予測することが可能であることが確認された.
脱塩適用時の鉄筋間における塩分の移動を確認するために,鉄筋を並列,縦列に配置した供試体に脱塩工法を適用し,脱塩処理後の可溶性塩分量の測定を行った.その結果,並列,縦列配筋のどちらの場合においても,鉄筋間において,塩分の減少しにくい部分が存在することが確認された.しかし,これらは時間の経過に伴い少しずつ減少することが確認されたので,脱塩期間や脱塩方法を適切に設定することで,抜け残りの可能性を小さくすることが出来ると考えられる.
長期暴露供試体の観察の結果,脱塩を適用したすべての供試体にアルカリ骨材反応によるひび割れを確認した.これは,骨材に反応性骨材が用いられていたことと,脱塩による鉄筋位置でのアルカリ集積が原因と考えられる.また,自然電位と腐食速度から鋼材の腐食診断を行った結果,アルカリ骨材反応によりひび割れが発生し,鋼材が腐食し易い状況であったにも関わらず,暴露開始から約800日経過した時点でも,腐食領域にある供試体は少なく,高い脱塩効果が得られていたことを確認した.