鈴木 幸憲

短繊維および繊維メッシュ補強鉄筋コンクリートはり部材の曲げひび割れ幅

指導教員:下村 匠

既往の研究において,コンクリート剥落防止効果がある短繊維および繊維メッシュ混入によるひび割れ幅低減効果の確認がなされた。この報告では,繊維混入によるひび割れ幅低減メカニズムが,コンクリート表面のひずみの増加と繊維混入による鉄筋周囲の付着改善による複合効果であると推察している。しかし,この検証は,一軸引張条件下で行われており,曲げ条件下でのひび割れ幅低減効果およびそのメカニズムの実験的検証が課題として残った。
本研究は,曲げ条件下で,短繊維および繊維メッシュを混入した鉄筋コンクリートはり部材による曲げ載荷試験を実施した。繊維混入によるひび割れ幅低減効果の確認,ひび割れ幅低減メカニズムを構成する3つの影響因子について検討および実測したひび割れ幅とひび割れ幅適合条件式より算出したひび割れ幅の比較を行った。
本研究で使用した繊維は,アラミド繊維,鋼繊維および繊維メッシュの4種類である。供試体水準は,各繊維を単体で混入した供試体,基準供試体,MIX供試体の計6体とした。供試体は,断面300×150mmとし,主鉄筋にはD13異形鉄筋を2本配置,鉄筋表面までのかぶりを50mmとした。等曲げモーメント区間を1200mmとし,せん断スパンと定着部にせん断補強筋D10を100mm間隔で配置した。MIX供試体には,T-321凹凸とT-327を2:1で混合した。繊維メッシュ供試体は,供試体長軸方向に繊維束が4束配置した。
載荷方法は,載荷スパン2700mmの対称2点集中繰返し載荷とした。本試験は,供試体底面でのひび割れ幅を対象とした。
以下に,本研究で得られた知見を示す。
@同一荷重時の平均ひび割れ幅は,基準供試体に比べて繊維入り供試体ではいずれも小さい。すなわち,繊維混入により平均ひび割れ幅が小さくなる。
A本研究の範囲では,複数の繊維を混入することによるひび割れ幅低減効果の増大は認められなかった。また,繊維メッシュは短繊維と同等のひび割れ幅低減効果があることが確認された。
B全供試体で,荷重の増加と共に平均ひび割れ間隔が漸減した。ひび割れ分散性の向上によるひび割れ間隔の漸減が,繊維混入によるひび割れ幅低減効果に寄与すると判断される。
C測定値から得られる平均ひび割れ幅とひび割れ幅変形適合条件式による計算値との比較から,繊維混入によるひび割れ分散性の向上が,ひび割れ幅が低減する主な要因であることを確認した。
D本研究の範囲では,繊維混入によりコンクリートの引張剛性が少し低下したが,同時にひび割れ分散性が向上しひび割れ間隔が小さくなった。後者の寄与が前者を上回ったため,繊維混入によりひび割れ幅が小さくなったと推察される。