佐藤 誠二

乾燥収縮が断続的に拘束されたコンクリートにおける変形と応力の導入

指導教員:下村 匠

コンクリートの収縮ひび割れを予測するためには,収縮が拘束されたときのコンクリートへの応力および有効ひずみの導入特性,ひび割れ条件を明らかにする必要がある.つまり,収縮特有の事項である,時間スケールや内部拘束などの影響などに対応した引張変形特性,破壊条件が必要であると考えられる.有効ひずみの成分を定量化することは,一般的な載荷経路上でのひび割れを予測するためには不可欠である.そこで,本研究では,新たな試みとして乾燥収縮が拘束されたコンクリート供試体の有効ひずみに含まれる瞬間弾性ひずみ,非回復ひずみ,遅れ弾性ひずみを実験的に抽出し検討を行う.
本研究では,JIS一軸拘束収縮試験を応用し,乾燥期間中に吸湿および拘束を解放する実験を行った.これにより,乾燥収縮が拘束されることによる応力を瞬間的,あるいは徐々に除荷させることができる.
乾燥途中において吸湿させる実験では,供試体の乾燥湿度を60%から高湿度環境に変化させることにより,コンクリートの挙動は乾燥収縮から吸湿膨張に転じたが,自由収縮ひずみは完全には回復しなかった.また,一軸拘束収縮試験の乾燥収縮による応力−有効ひずみの直線的な関係は,既往の研究において確認されていたが,本研究では,コンクリートの吸湿膨張による除荷過程においても,直線的な応力−有効ひずみ関係を確認した.除荷過程は,瞬間的ではなく吸湿によりゆっくりと行われているため,除荷により回復するひずみには,瞬間成分と時間依存性成分が含まれている.したがって,吸湿による膨張が収束したときの残留ひずみは非回復成分がほとんどであると考えられる.乾燥収縮の拘束による持続載荷によって,非回復の引張ひずみが導入されていることが示唆される.
次に,拘束を途中解放可能な一軸拘束収縮試験体を用いて,乾燥途中において拘束を解放する実験を行った.乾燥収縮が拘束されたコンクリートの有効ひずみには,除荷時に瞬間的に回復する弾性ひずみ成分,時間依存性の遅れ弾性ひずみ成分,非回復ひずみ成分が含まれることを実験的に明らかにした.また,持続載荷されたコンクリートに導入する引張応力が大きいほど,除荷時の瞬間弾性ひずみおよび非回復ひずみは大きくなることが明らかとなった.しかし,遅れ弾性ひずみに及ぼす応力の影響は,本実験では明確には認められなかった.コンクリートに導入した最大応力と瞬間弾性ひずみは直線的な関係にあり,瞬間弾性ひずみと遅れ弾性ひずみの和と最大応力の関係は,コンクリートの静弾性係数のほぼ直線上にプロットされた.また,乾燥途中において吸湿させた供試体にも同様の傾向が見られた.よって,一軸拘束収縮試験において観察される有効弾性係数がコンクリートの静弾性係数より小さい理由は,非回復ひずみに相当する部分であることが考えられる.