佐伯 奈都美

先行ひび割れを有するRC床版の押し抜きせん断挙動に関する実験的検討

下村 匠

先行ひび割れを有するRC床版の押し抜きせん断耐力は、クラックパターンの違いにより優劣の評価が異なる結果が既往の研究により報告されている.床版の押し抜きせん断挙動の複雑さも相まってその影響度については不明瞭な点が多い.
そこで本研究では,ひび割れの持つ特性を位置・方向性・面形状の3つに分類し,それぞれの役割を分離することによって,総合的に先行ひび割れが押し抜きせん断挙動に与える影響を評価することとした.この目的のために,模擬ひび割れを有する床版の押し抜きせん断試験を行い,特に亀裂面形状が押し抜きせん断挙動に与える影響を検討した.併せて既往の研究報告とともに先行ひび割れを有する鉄筋コンクリート部材の応力伝達機構について一般化・高度化を行うものである.
本研究から得られた知見を以下に示す.
はじめにひび割れの方向(縦・横),ひび割れ面形状(平板・波板)について検討した.ひび割れ面が凹凸を有する場合,凹凸部接触面に生じるせん断伝達力が耐力の増減に影響を及ぼし,縦方向に平板を用いた場合耐力は低下し,波板形状では耐力は増加した.ひび割れを水平に配置した場合,耐力は低下したがひび割れ発生後にタイドアーチ的な耐荷機構に遷移し,通常の床版とは異なる耐荷メカニズムを形成することを示した.
2方向ひび割れの配置距離を変え,ひび割れ位置の影響および1方向ひび割れと2方向ひび割れの比較を行った結果,ひび割れ位置と押し抜きせん断耐力の関係は,ひび割れ面の形状に影響されること示した.ひび割れ形状が凹凸を有するケースでは,ひび割れ位置が載荷点に近いほどせん断伝達部の面積が増加して耐力の向上が見られるが,ひび割れ面が平滑な場合は逆に,ひび割れが載荷点に近いほど耐力は低下する.