渡辺 郷

ケーブルクレーン鉄塔の終局挙動に関する研究

岩崎英治,長井正嗣

本研究では橋梁上部工架設に用いられる仮設構造物,ケーブルクレーン鉄塔について検討を行う.仮設構造物は,本体構造物の計画設計をはじめ施工内容,安全性,経済性,工程等に至るまで大きな影響を及ぼすものであるため,その重要性はますます大きくなってきている.また,安全性の照査に関しては,「労働安全衛生規則」,「クレーン等各構造規格」などの法令の規定に従って実施しなければならないが,仮設構造物は小さな部材の集合体で構成されることが多く,鉄塔は細長比が大きな場合が多いため,その設計を行う際には十分な配慮が必要である.しかし,本体構造物に比べると,個々の鉄塔の力学挙動について詳細に検討することは少ないのが現状である.そこで本研究では,「鋼構造架設設計施工指針」に掲載されている簡易なモデルと,実際の架設工事で使用されている鉄塔に近い詳細モデルについて,設計施工指針に規定されている荷重状態での,斜材や水平材の剛性の違い,支承部の支持条件の違いが,鉄塔の終局挙動に与える影響について考察を行う.
2種類のモデル共通の解析条件として,斜材を取り付けない場合,最下段以外に斜材を取り付けた場合,全段に斜材を取り付けた場合の3ケース,常時,作業時,地震時,暴風時の荷重状態4ケース,支承部をピン支持で表現した場合と固定支持で表現した場合の支持条件2ケースで解析を行う.さらに,簡易モデルでは斜材の剛性を変えた3ケース,水平材の剛性を変えた2ケースについて,詳細モデルでは,水平材と柱材の連結部の剛性を上げた場合と上げない場合についての解析条件を追加し,検討を行う.
解析条件より次のことが確認できた.
・ 水平材や斜材の剛性の違いが鉄塔の耐荷力に与える影響は大きく,設計荷重に満たない荷重で降伏してしまう場合や,わずかな変位で終局に至るケースもある.
・ 水平部材と柱部材の接続部で降伏が起こるケースが多かったが,そこを補強することで耐荷力が向上し,安全性が高まる.
・ 設計する水平部材の構造によっては,斜材の影響をほとんど受けないケースもあり,その場合は斜材を省略することで経費の削減が可能となる.
・ 様々な組合せで解析を行ない,現場条件に最も適したモデルを採用することが望ましい.