林 裕也

鋼I桁終局曲げ強度の各種簡易評価法の比較考察

長井正嗣 岩崎英治

近年、橋梁建設事業にあたり、建設コストの低減が強く望まれており、各機関で積極的な対応が行われている。鋼系橋梁の建設数の約90%を占める桁橋に目を向けると、これまで、「多主桁」、「多補剛薄板」、「複雑な横補剛システム」、「非合成設計」が基本的な設計コンセプトであったが、最近では、「合理化桁」と呼ばれる、極めてシンプルな構造形態の橋が開発されている。このタイプの橋梁では、「少数主桁」、「少補剛」が主な設計コンセプトとなっている。
さて、鋼I桁鋼単独の終局曲げ強度は、道示では降伏モーメントが最大と定義されている。桁高さと材質を選べば、水平補剛材の数を選定することでウェブ厚が決まる。水平補剛材を設けるか否かは、重量と加工工数のバランスを考えて決定される。この手法を厳守すれば、荷重を増加させた場合、ウェブの座屈が先行するものの、I桁の最大強度が降伏モーメントになると言われている。道示は、以上のようにI桁の降伏モーメントを前提としたウェブの補剛システムを規定しているが、設計自由度は少ない手法といえる。それに対して、ウェブの板厚や補剛システムを設計者が任意に設定し、終局強度が評価できれば、またその終局強度を用いて、安全性能の照査を行うことができれば、設計自由度を広げることが可能となり、当然、経済設計に繋がることが期待できる。
そこで本研究では、すでに提案されている3手法の鋼I桁の曲げ強度評価法を対象に、実際に使用例のあるI桁断面を照査し、その精度比較を行った上で、今後どの手法を採用すべきかの検討を行う。
計算結果によって得られた結論は以下のようになる。
・西村式では、ウェブ圧縮領域が狭い場合、下フランジ位置の応力が特定できない問題が生じる。
・西村式、PART-Aは三上式より強度を高く評価する傾向にあるが、この原因として、横ねじれ座屈強度の高い評価式を両者が使用している点が考えられる。
・三上式は、ここで採用したモデルにおいて、西村式に対して最大7%の差異が生じるが、Case-4,6,8を除いて、その他のケースでは比較的良い一致を示している。
・3手法間の差異は極端には大きくなく、三上式が安全側で利用できると考えられる。
・実験結果との比較から、簡易評価手法が安全側の評価となる傾向が得られた。