PHAN QUY THANH
正・負曲げを受ける合成桁の終局強度に関する実験的研究
長井 正嗣,岩崎 英治
我が国における合成桁の設計では,終局曲げ強度は下フランジが降伏点または座屈強度のうち低い方の強度に達する場合と定義されている.一方,ヨーロッパ圏またアメリカでの設計基準では,それよりかなり高い強度すなわち塑性モーメントと定義されている.そこで,今後一層のコストダウンを行うためには,塑性設計の導入が欠かせないと考えられ,そのための準備を行う必要がある.
合成桁の終局曲げ強度は,合成断面の塑性中立軸(PNA)がコンクリート床版にある場合,塑性モーメントとなる.一方,PNAが腹板内にある場合,Dp/Dt(Dp:床版コンクリート上縁からPNAまでの距離,Dt:合成桁のコンクリート床版を含む総高)がEC(ユーロコード)では0.15以上,またAASHTO-LRFD(アメリカの荷重係数抵抗設計法)では,0.1以上では,コンクリートの圧壊が先行して(Ductility条件)塑性モーメントが達成できないとされている.その場合,Dp/Dtに応じて塑性モーメントを低減させる表あるいは評価式が与えられている.
当研究室では,これまで,終局強度評価に関する実験,解析的検討を行ってきた.そこでは,ECやAASHTO-LRFDで与えられる断面区分の規定やDuctility条件が安全側なる結果が得られている.ただ,試験結果が2体と限定されていることから,本研究では,新たに合成桁の正・負曲げ試験の2体の追加を行い,終局曲げ強度を明らかにし,区分式や条件式の新たな推定を目指す.
本研究で得られた結論を要約すると以下のようになる.
1.我が国の合成桁の設計では,終局曲げ強度は下フランジが降伏点の強度に達する場合と定義されている.しかし,本研究の合成桁の正曲げ試験では降伏強度よりかなり高い強度すなわち塑性モーメントが達成できたことを明らかにした.今後一層のコストダウンを達成する上で塑性設計の導入が欠かせないと考えられる.
2. Ductility条件に関して,EC(ユーロコード)によれば、Dp/Dtが0.15以上、AASHTO-LRFD (アメリカの荷重係数抵抗設計法)では0.1以上で塑性モーメントが達成できないとされている.しかし,本研究の正曲げ実験ではDp/Dtが0.24で塑性モーメントが達成できている.そのため,Ductility条件の見直しが必要と考えられる.
3.本研究の2重合成桁の負曲げ試験において,全塑性モーメントに達成できなかったが,床版の圧壊状況に着目すると水平軸方向破壊と分かる.この現象により,スタッドは今回の負曲げ試験における全塑性モーメントが達成できなかったことの一つの要因だと考えられる.よって,今後の課題として2重合成桁のスタッド設計,配置方法などについて検討する必要があると考える.