木村 正吾

炭素繊維シートを用いた鋼部材の部分補修に関する実験的研究

長井 正嗣,岩崎英治


鋼構造物はさまざまなメカニズムにより劣化し,性能が低下する.この劣化した構造物への対策としての補修・補強において,供用中の制約条件の下で効果的な工法が強く求められている.このような中,目的に合わせた適材適所の補修・補強材料として炭素繊維シートを利用することが注目を浴びており,多方面において適用化への技術開発が進められている状況である.
本研究では炭素繊維シートによる鋼構造物の補修・補強の実用化を目指して,設計・施工指針の作成に向けた基礎的な実験データを得ることを目的とする.

 結果は以下のようになった.
@炭素繊維シート補強部材の力学的特性把握

 CFRP剥離が発生するまでは,積層数に応じた補強効果が得られていていることを確認できた.また,並列モデル型の複合則での計算値と実験値がほぼ一致することから,合成断面として設計できることが確認できた.

 また, 補強範囲の影響は, CFRP剥離が発生するまでは,CFRP補強長さが変わっても,補強効果が得られていていることを確認できた.

 剥離に関しては, 積層数が増えるにしたがって剥離しやすい傾向にあることが確認できた.また, 傾向として,補強長さが短くなるにつれて,剥離しやすいことを確認できた.
A適用性能の確認

断面欠損部が大きくなるほど,補強効果が大きくなる傾向にあった.断面欠損部が大きくなることで,CFRPの荷重分担率が大きくなり,鋼材のひずみが小さくなるためと考えられる.

 逆に断面欠損率が小さいほど,剥離荷重が小さくなることが確認できた.断面欠損率が小さい場合,完全接着断面と同様に,端部の応力集中が影響し,同時に,鋼材の断面積の減少による変形量が大きくなる.逆に,断面欠損率が大きい場合は,切断試験片に近くなり,水平せん断応力の分布が変わり,剥離荷重の増加につながっていると考えられる.
B既設構造物への施工を考慮した接着方法

CFRP接着長70mm以上であれば,CFRPへの有効な応力伝達がなされることが確認できた.ただし,今回の試験ではCFRP積層数3層に限った結果であり,積層数を変更した場合は,必ずしもこの結果と一致しないことも考えられる.

素地調整の基準を設けることで,剥離荷重のばらつきを抑えることができると考えられる.また,部分接着の結果より,端部周辺のみを入念にケレンすることでも効果が高いと考えられる.その他の範囲は,簡易なケレンとすることで,現場での作業を軽減することが可能となる.