高橋 匡史

中越地震における地盤被害調査と過去の地震被害との比較

大塚 悟

2004年10月23日に発生した新潟県中越地震は,斜面や盛土・造成地の崩壊や沈下,液状化等の地盤災害が多発したことが特徴である.この中越地震における地盤災害は過去にもみられ,1847年に発生した善光寺地震や1978年に発生した宮城県沖地震による被害と類似している.よって,中越地震で発生した被害は,過去に起きた地震の教訓が生かされていなかったことから,被害が拡大したのではないかと考えられる.そこで本研究では,善光寺地震と宮城県沖地震の被害を例にとり,中越地震で発生した褶曲地帯で発生する自然斜面災害,また盛土による宅地造成地被害といった事例に関して,検討を行う.

 文献調査を中心に,旧山古志村で発生した自然斜面崩壊,長岡市高町団地で発生した宅地造成地被害についてまとめ,善光寺地震による自然斜面崩壊,宮城県沖地震による宅地造成地被害と比較を行った.また,高町団地の崩壊地より試料を採取し,物理試験や三軸圧縮試験を行った.以下に,本研究より得られた知見を箇条書きにて記す.

・ 中越地震の甚大な地盤災害は過去の地震被害にも発生していることが確認され,被害と教訓の伝承が防災上不可欠であることが分かった.災害調査の知見が今後の施策や施工に十分に生かされる必要がある.

・ 活褶曲地帯では地質や地形,災害の形態が類似していることが,新潟県中越地震と善光寺地震との比較より明確となった.基本的に低強度の弱齢地盤が山地を形成し,地すべり多発地帯である.地層の褶曲により流れ盤斜面では大規模崩壊が発生し,受け盤斜面では表層崩壊が生じた.両地震ともに地すべりによる大規模な河道閉塞が生じており,防災上の課題である.

・ 斜面被害の甚大であった旧山古志村地区は地すべり跡地を利用した棚田や養鯉池の景勝地であった.古くから災害と共存する歴史を有しており,災害復旧のモデル地区といえる.現代の災害復旧は力尽くの側面があり,旧山古志村の知恵に学ぶ必要がある.

・ 宅地地盤の被災は道路などに比べて復旧が困難であり,被害は甚大である.切盛境界での宅地被害や盛土崩壊は宮城県沖地震における被害と共通する.特に傾斜地の盛土は被害が大きい.また,集水地形の盛土は被災率が高いことから,適切な排水処理が重要である.