河野 智也

河川高水位時の堤防の破堤シミュレーションに関する研究

大塚 悟

本研究は,河川高水位時における堤防の破堤シミュレーションを目的とする.現在,河川堤防の破堤シミュレーションの手法はテルツアギーの1次元浸透力のつりあい解析や,円弧すべり解析などの古典的な手法が用いられており,実際現象を表現できない問題がある.
はじめに,飽和・不飽和浸透解析により河川高水位時の堤体内の浸透挙動を解析的に表現した.堤体と基礎地盤の材料定数の違いによる浸潤面の時間的変化の違いを表した.
次に飽和・不飽和浸透解析と剛塑性有限要素法による安定解析の連成解析により,地盤の浸透破壊や不飽和土の飽和度変化による地盤定数の変化を考慮した安定性評価への適用性について検討した.浸透破壊については締切り矢板打設地盤におけるボイリングの検討を実施し,堤体の不飽和土の強度変化については降雨時における自然斜面の表層崩壊について模型試験の数値解析を実施した.
締切り矢板打設地盤の浸透破壊の解析は止水矢板の左側の水位を上昇させて浸透破壊に対する安全率を算出した.安全率が1となる水位を求めると限界水位が得られる.この方法によると慣用法であるTerzaghiの1次元釣り合い解析に対して,多次元的な浸透力や破壊を表現できる特長がある.また,慣用法が力の釣り合いしか考慮しないのに対して,地盤のせん断抵抗力を取り入れることから,従来地盤の強度定数によらずに限界水位が一定とされていた問題が地盤の強度定数によって異なることを明らかにした.
河川水の浸入による堤体の強度変化に関しては,降雨時における斜面崩壊試験の事例解析により解析手法の適用性を検討した.不飽和土の水分特性曲線を完全に表現することが出来ないにもかかわらず,斜面の飽和度の時間変化は模型実験による計測結果とほぼ合致する結果が得られ,斜面の崩壊時刻や崩壊形態を数値解析によりほぼ表現することが出来た.
以上の基礎的検討を踏まえて,河川高水位時の堤防に対する安定解析を行った.堤体の強度変化や浸透力に起因する複数の破壊形態が,河川水の堤体への浸入条件や地盤の強度変化に応じて現れることを数値解析によって表現した.特に砂礫層が消失する行き止まり地盤において地下水の被圧による堤体の破壊現象を表現するのは,今までにない本解析手法の特徴である.実際現象に即した解析が今後の課題である.