井上 由美子

対策工の斜面安定効果に関する数値解析的研究

大塚 悟

現在実務で用いられている斜面対策工の設計は,極限平衡法に準拠した設計方法である.極限平衡法は解析的に簡便であるが,斜面崩壊の詳細なメカニズムや,対策工と斜面の間の相互作用を十分には表現できないといった問題点がある.本研究では,このような問題点を克服し,より精度の高い設計法の開発に向けた基礎的研究として,剛塑性有限要素法(RPFEM)を用い,対策工の斜面安定効果について数値解析を行い,新しい設計法の適用性を評価することを目的としている.対策工には軸力(N)とモーメント(M)が作用するものとし,塑性理論に基づいて剛塑性構成式を定式化した.これを既存のRPFEMに導入することで対策工とすべり土塊の相互作用を表現する方法を提案する.対策工の斜面安定効果に関する数値解析を通して本手法の適用性を検討するとともに,対策効果の定量的評価について考察する.
具体的には以下の3点について本解析手法の適用性の検討を行った.
1点目は,定式化した梁の剛塑性構成式を用いて梁要素のみで,剛塑性解析を行い,定式化した式の適用性について確認した.また,斜面安定解析に導入した場合に梁要素の境界条件にて不静定となる問題点を解決するため,端部抵抗力剛性を考慮した.
2点目は,要素試験に補強材を入れ,要素全体の補強効果について検討を行った.事例解析では安全率の向上はあまり見られなかったが.補強材を導入することで破壊モードが異なり,さらに補強材の角度によっても破壊モードが異なることを確認した.
3点目は対策工による斜面安定の効果について,本解析手法の適用性を検討した.対策工として,アンカー,抑止杭をモデル化し,アンカーのプレストレスや挿入角度,挿入長さ,本数等を変えて解析を行った.その結果,斜面安定に効果的な挿入角度や長さがあることを示唆する結果が得られた.実際現象の精密な解析結果が得られたが,更に実現象に近い解析ケースを増やして計算を行い,本解析手法の妥当性を検討していく必要がある.
本研究で示した解析事例は初生すべりに関するものであり,実際問題への適用性を考察するためには既存すべり線が存在する斜面についての検討も必要であると考えられる.また,本研究での検討は2次元問題に限定されている.2次元問題では安全率を過大評価する恐れがあることから,対策工の適切な安定効果を検討するためには3次元問題への拡張が重要であり,今後の課題としたい.