辻岡孝彦

豪雨や地震時における不飽和斜面の強度評価

豊田浩史

2003年には九州,2004年には新潟・福島,福井などで豪雨災害により,多大な被害が発生した.また,土砂災害が多発した新潟県中越地震では,集水地形での崩壊がおおく,地震発生前の降雨によっても,多くの斜面崩壊が誘発されたと考えられている.
一般に,地盤は地下水面を挟み,飽和土と不飽和土から構成され,性質は全く異なるものとなる.飽和土は非圧縮性の土粒子(固体)と水(液体)の二相混合体であるのに対し,不飽和土は,さらに圧縮性の空気(気体)を含んだ三相混合体である.これまでの研究では,地下水位に着目した検討は行われてきているものの,その結果を斜面などの強度評価に結びつけているものはほとんどないのが現状である.特に不飽和土は,飽和度により見かけの粘着力が変わるため,地盤の含水状態を考慮した上で斜面等の強度評価を行うべきである.
本研究では,実際に崩壊した堤防や斜面の土を用いて不飽和状態を考慮した試験を行い,その試験結果を用いて不飽和斜面の強度評価について検討を行う.
具体的には,一面せん断試験により各飽和状態における土質定数を求め,その土質定数を浸透解析結果より得られた地盤断面に代入し,安定解析を行った.地震時においては,飽和,不飽和時に繰返し載荷の影響を考慮した土質定数を用いて斜面安定解析を行った.
本研究で得られた知見を以下に示す.
1.豪雨時の破堤箇所の試料では,飽和状態が変化しても見かけの粘着力が変化するだけで,内部摩擦角は含水状態によらず一定であった.
2.豪雨時における浸透解析によって得られたサクションのコンターを,一面せん断試験で求めた体積含水率−粘着力関係から粘着力のコンターにすることができた.
3.サクションに応じた粘着力のコンターを得ることにより,斜面安定解析を行う際,不飽和状態を考慮して安全率を求めることができた.
4.地震による斜面崩壊箇所から採取した試料は,飽和土の液状化強度曲線から,DA=1,2,5%の曲線の間隔が狭いので,一旦液状化するとひずみが急激に進行する試料である.
5.サクションの作用した不飽和砂質土は,繰返し載荷によりほとんど強度変化を起こさなかった.
6.地震時には含水比状態と繰返し載荷の影響を考慮した土質定数および強度で安定解析を行う必要がある.