佐藤 千春

鉄道軌道を考慮したSEA法の実橋への適用に関する研究

宮木 康幸



鉄道橋を列車が走行する際に発生する騒音は,大別すると“走行音”と“固体音”(構造物音)に分けることができる.鉄道橋の騒音において特に鋼製の場合,固体音が卓越する.よって,本研究では固体音に着目し,研究対象としている.
本研究は,騒音として重要な中高周波数域の計算を得意とする,統計的エネルギー解析法(SEA法)を用いている.SEA法は,解析対象となる構造物を,多数の要素(以下サブシステム)に分割し,パワーフローの平衡関係からエネルギーを計算する手法である.
SEA法では橋梁への入力データとして,鉄道橋で測定された振動加速度を用いている.このデータは,軌道や音源として寄与度の高い床版・桁などが考えられる.床版や桁は,橋梁のスパン長,構造形式など個々の橋梁で大きく異なるのに対し,軌道は類似した振動加速度スペクトルをみせ,類型化が可能である.したがって,本研究では,軌道での振動加速度を想定し,新橋においての騒音予測を最終目標とする.
昨年度は,騒音伝搬を考慮し回折効果を導入したSEA解析が行われた.しかし,入力位置は床版,入力データは軌道スラブでの振動加速度値を用い解析が行われた.新橋においての騒音予測を可能にするためには、入力位置および入力値を類型化可能なレールとし解析を行う必要がある.よって,本研究では実橋でのSEA法による解析において,軌道構造を考慮した解析を行うと伴に,固体音伝搬予測の汎用性の向上を目的としている.

 本年度における解析は,まず,軌道構造を考慮したモデルを作成し,昨年の23,59分割の解析結果と比較した.入力位置および入力値は,昨年と比較するため,同じ条件で解析した.その結果,軌道構造を考慮することによる,音圧レベルの低下が確認できた.さらに,軌道部の防振材無しのモデルと,防振材有りのモデルとで解析値の比較を行った.その結果,実測値と解析値O.A値の比較において,防振材無しでの場合は,比較的近い値を示した.しかし,防振材有りでの場合では,非常に低い値を示し,音圧レベルの予測精度が著しく低下した.そこで,防振材はサブシステムとしてではなく,結合として考えた.この解析では,実測値より透過係数を算出し,その値を結合損失として与えた.その結果,O.A値と音圧レベルともに実測値と近い値をしめした.さらに,防振材による,周波数ごとの防振効果を取り入れることが可能となった.