小野 泰和

騒音伝搬モデルに用いる解析手法に関する研究

宮木 康幸


騒音は日常生活に密接な関係があり,関心の高い環境問題の1つである.この問題を解決するため,騒音の発生源に対する個別の騒音伝搬解析や騒音制御技術が盛んに行われている.しかし汎用性を持った騒音伝搬予測技術はあまり開発されていない.そこで昨年度は,2次元騒音伝搬モデルの開発を目的とし,複雑系の解析手法として注目されているセルオートマトン法(以下CA)を用いて計算を行った.CA法は解析対象を均一な大きさのセルに分割し,各セルで定義された離散的な状態量を近傍のセル間に設けた局所近傍則によって,離散的時間を追って状態量を推移させる手法である.CA法を用いることで2次元空間における騒音の伝搬予測が可能であることがわかった.
しかし,音波が伝搬する場合には減衰,回折,干渉,移動などさまざまな現象が生じるため十分にそれぞれの現象に対して検証が必要となる.また,これらの現象をCA法で予測することで他の解析手法と比べどの程度の精度を得られるか検討されていない.そこで本年度は新たに解析領域全体を離散化して解く方法の代表的なものである差分法を用いて計算を行いCA法との解析比較を行う.
まず,昨年度行った1次元音響管の波動方程式の解と,2次元自由音場について距離減衰,半無限障壁の回折減衰をFresnel-Kirchhoffの光の回折理論および前川の実験式の2つと比較することで,CA法と差分法の騒音レベルの予測にどの程度適用できるか検討を行った.さらに,さまざまなモデルを考え両手法の計算結果を比較する.はじめは,現存する防音壁の形状を用いてモデル化し壁の形状が変化しても計算を容易にできるかを行った.次に音源を2つ配置し干渉モデルの検討を行った.そして,最後に音源が移動する場合について考えた.
その結果CA法の予測結果でも差分法と同等の結果が得られ十分に信頼できる結果ということがわかった.
そこで,次に計算する周波数と解析領域のセル幅の関係を調べCA法による計算可能条件を探る.また,複雑なモデルや大規模なモデルを予測する際に重要となる計算時間についても検討を行った.2次元の解析領域2000分割で計算時間の測定を行った.差分法よりもCA法を用いた計算時間が約18%低減される結果が得られた.この結果は分割数が大きくなるほど計算時間の差が広がる傾向にあり,3次モデルではさらに大きくなることが予想される.