柴木照三
地方都市既成市街地の大規模低未利用地に関する研究
中出文平・樋口秀
本研究は,地方都市の既成市街地に存在する大規模低未利用地の現状とその再利用に向けて動いている先進的な個別事例を,@都市計画マスタープランへの位置付け,A行政の関与,B活用内容の3つの視点で分析し,大規模低未利用地の再利用の実現可能性を検討している.我が国の低未利用地の活用に向けた動きは遅く,今後の持続可能な開発,都市再生を考えていく上で,「以前に開発のあった土地(brownfield)」の再利用は,郊外緑地(greenfield)の開発よりも持続可能な開発パターンであり,今後も重要性が増してくると考えられる.現状分析の対象とした地方都市は人口25万人以上の30都市であり,その中から青森市,宇都宮市,姫路市,福山市の4つの都市の事例を先進事例として詳細に分析した.分析を進めるに当っては,地形図を用いた大規模低未利用地の抽出,行政アンケート調査,各種資料分析,現地踏査及び行政ヒアリング調査を行なっている.研究の結果,地方都市の既成市街地でも都市構造的,産業構造的な低未利用地が発生しており,公共公益施設の移転更新による跡地も発生していることが明らかになった.また,大規模低未利用地は規制の緩い用途地域で多く発生していること,活用主体には民間主体が多いこと,低未利用地の去就には土地所有者の意向によるところが大きいことから,現状では既成市街地に発生した大規模低未利用地が望ましい形で再利用されない可能性を持つことが明らかになった.分析視点では,都市計画マスタープランに位置付けられている事例は少なく,その中でも活用された事例は福山市の事例1件だけであったが,都市計画マスタープランでの方針の明示は,持続可能な開発や都市再生に寄与するより望ましい低未利用地の再利用に効力を発揮する可能性があることが青森市の事例から明らかになった.行政の関与と活用内容の視点からは,敷地規模を活かした大規模商業施設としての利用が現実的であることがわかり,姫路市と福山市の事例が民間主体による商業開発に行政が介入した事例であった.これらの事例から用途変更と地区計画による規制と緩和,民間主体に行政施行の土地区画整理事業によるメリットを提供することで,より望ましい大規模低未利用地の再利用が図られることが明らかになった.行政が主体となっている大規模低未利用地では,民間活力の導入が効果的であることが宇都宮市の事例から明らかになった.