辻資生

La(Ni,Fe)O3の空気極性能に及ぼす雰囲気酸素圧の影響

佐藤一則

ペロブスカイト型酸化物(ABO3)における組成不定比性と異種イオンの固溶は、電子伝導性あるいはイオン導電性を支配する。固体酸化物燃料電池(SOFC)用の空気極材料として、高い導電性、気相酸素に対する還元能、および電解質の熱膨張率との適合性が、ペロブスカイト型酸化物に要求されている。SOFCの発電効率を高め、その構成材料選択の幅を広げるためには、現状より低い動作温度において優れた空気極性能を示す材料が必要である。SOFCの新規空気極材料として高い電子伝導性をしめすLa(Ni0.6,Fe0.4)O3(LNF)に着目した。LNFは従来の空気極材料であるLa0.8Sr0.2MnO3(LSM)に比べ、高い電気伝導性を示す。したがって、LNFの空気極への適用によってSOFCの内部抵抗を低減できると期待できる。これまで、LNFのSOFC空気極としての報告例は少なく、LNF結晶相の状態が発電性能に及ぼす影響は検討されていない。本研究では、LNF結晶相の熱化学的安定性と導電率に及ぼす酸素分圧の影響を評価することを目的とした。また、LNFのSOFC空気極での発電時における雰囲気酸素分圧がLNF空気極性能に及ぼす影響について、放電特性・空気極過電圧測定を行うことで電極性能評価を検討した。
LNFの多孔質厚膜試料に対して導電率測定を行った。大気雰囲気中では、LNFは高い導電率を示す。しかし、900 ℃以上の不活性(Ar)ガス雰囲気下では、LNF結晶相の分解に伴う導電率低下を示した。LNF空気極を用いた単セルの発電特性評価を750 ℃〜850 ℃の温度範囲において行った。水素を燃料とした場合、850 ℃において約100 mW・cm-2の最大発生電力密度を得た。0.2 Vの端子電圧における発電時間が、LNF空気極過電圧に及ぼす影響を検討した。850 ℃では、発電時間とともに過電圧が低下し、定常値に達した。この過度的変化は空気極と電解質の界面における電気的平衡状態の到達によって支配されるものと考察した。空気極過電圧に対する酸素分圧依存性測定によって、低電流側の反応過電圧領域において酸素分圧が高いほど酸素の吸着・脱離速度が低下し、過電圧が増大するが、高電流側の濃度過電圧領域では酸素分圧が低いほど気相との濃度勾配が大きくなり、過電圧が増大することを示した。
以上の結果から、LNFの電気伝導性に影響を与える気相酸素濃度と空気極過電圧の関係を明らかにし、固体酸化物燃料電池用空気極としてLNFの優れた性質を示した。