高沢典孝

リン酸塩ガラスの酸化還元

松下和正

低融点ガラスは一般的に用いられるガラスに比べはるかに低い温度で溶融することができる。しかし、現在使われている低融点ガラスの多くは生物に有害な鉛化合物が含まれている。鉛を含まない低融点ガラスとしてリン酸を主成分とするガラスがある。しかし、リン酸を含むガラスを還元させる場合、リン酸自体が還元し、ガラス構造に影響を与え、ガラス転移温度(Tg)、密度などの諸物性が変化することが報告されている。そこで、還元による基礎物性の変化、ガラスの構造に対する影響を考察するために本研究では50P2O5-50ZnO、50P2O5-50Na2Oの2成分系ガラスの還元ガラスを作製し、考察した。
得られたガラス試料の特徴として、両組成とも大気雰囲気溶融では無色透明であった。しかし、還元雰囲気溶融後ではガラス中に黒い物質が出来た。X線回折分析の結果、還元雰囲気溶融でできた黒い物質は非結晶質のガラスの特徴であるハローを検出した。また、結晶化ピークは同じガラスの透明な部分と同じものを検出した。
両組成のガラスにおいて還元雰囲気溶融をするとガラス転移温度(Tg)、軟化温度(Tf)が上昇した。これはグルコース還元によってガラス構造が密になったためだと考えられる。しかし、アルキメデス法による密度測定では変化が現れなかった。
標準電極電位においてリン酸はZn、Naよりも還元しやすい。よって、ZnO、Na2Oの還元反応よりもリン酸は5価のP4O10から3価のP4O6に変化する還元反応が起きていると考えられる。P4O10対しP4O6は単位格子の先端に酸素が結合していない。よって、還元雰囲気溶融することによりリン酸はより密な構造をとることが出来るので、Tg、Tfが上昇する。また、ガラス中の黒い部分と透明な部分はリン酸の価数が違うために色が変化したためだと考えられる。