菱沼 章弘
ゲル粉末を原料としたパルス通電法によるシリケート2成分系ガラスの作製
松下 和正
ゾル−ゲル法を用いたガラスの低温合成や機能性付加が試みられているが、乾燥・焼成時の割れ等によりバルク体を得ることは難しい。そのため、高融点または機能性ガラスの効率的な作製手法の開発、ゾル−ゲル法のクラック制御を必要としない作製手法の開発が望まれる。本研究ではゾル−ゲル粉末を原料として用いたパルス通電法によるZrO2−SiO2、TiO2−SiO2シリケート2成分系ガラスのバルク体作製を試みた。
その結果、ZrO2−SiO2系は1020 ℃で焼成することによって、緻密化した焼結体を得た。ZrO2を30 mol%以下含有する組成で正方晶ZrO2が析出した透明体を得た。それを超える組成では完全に失透し、正方晶ZrO2、単斜晶ZrO2、ZrSiO4が析出した青色や黒色に着色した焼結体を得た。焼成過程で析出した正方晶ZrO2についてScherrer式により結晶子径を求めた結果、その大きさは20〜40 nmほどであることがわかった。また、その結晶子径はZrO2含有量が増加するに従い大きくなることがわかった。透明体では析出した結晶相が微結晶のために透明性を保ったと考えられる。一方、失透した試料は結晶量が多いこと、結晶相が複雑なこと、真空状態における結晶の酸素欠陥などが理由となり透明性を失うとともに着色したと考えられる。されに、種々の焼成温度における結晶析出挙動を調査した。その結果、750 ℃で結晶が析出し、温度上昇に伴い直線的に結晶子径が大きくなることがわかった。焼結が開始する温度とほぼ同時に結晶が析出するため、本作製法で完全なガラスを作製することは困難であると考えられる。
TiO2−SiO2系では、950 ℃で焼成をおこなうことで、緻密な焼結体を得た。5TiO2・95TiO2では結晶の析出が見られない透明なガラス、10 TiO2・90SiO2ではanataseTiO2の結晶が析出した青色がかった透明体を得た。10TiO2・90SiO2の着色原因は結晶の析出によりガラス構造中にTi3+が生成されたためと思われる。
両組成の析出した結晶相について、常圧焼成のゾル−ゲル法の研究と同様な結果であり、原料(sol−gel法)の特徴をそのまま反映していると考えられる。