川中 裕次
酸化ビスマスを主成分とした酸化鉛を含まない新しい低融点ガラスの開発
松下 和正
ガラス材料の一つとして低融点封着用ガラス,いわゆるハンダガラスがある。電子部品やガラス材料の接合,封着に用いられており,電子産業分野において重要な材料である。これまでのハンダガラスは酸化鉛を多く含むが,RoHS, WEEEに代表される国内外における法整備により鉛,鉛化合物はその用途を厳しく制限されているため,鉛を含有しない新たなハンダガラスが求められている。一方,酸化ビスマスを主成分とするガラスはその研究の過程において比較的低いガラス転移温度を有していることが明らかとなっている。しかしながら,このガラスを低融点ガラスとして用いようとする試みはほとんど無かった。本研究では酸化ビスマスを主成分として用いたシンプルなガラスを作製し,その最適な作製方法の検討,ハンダガラスとして重要な要素である熱的物性と耐水性および熱膨張係数について測定を行い,低融点ガラスとしての応用の可能性を検討した。
ガラス作製方法について,これまでバルク体ガラスを作製することが難しいとされてきたビスマス系ガラスにおいて,Tg以下でなるべく高温に保った状態にキャストすることでバルク体ガラスを作製することができることを明らかにした。また,ガラスの溶融について,溶融温度1100℃以下では白金るつぼをほとんど侵食しないこと,および,アルミナるつぼから大量のAl2O3が混入することを明らかにした。
低融点ガラスとしての適用について,Bi2O3-BaO-B2O33成分系ガラスにおいて,この系のガラスは,ガラス転移温度,熱膨張係数の値がこれまで一般的に使用されている低融点ガラスとほぼ同等の性能を有し,耐水性に優れていることを明らかにした。また,ビスマス系ガラスにガラスの安定下とTgの低下のためのBi2O3の含有量増加を目的としてAl2O3を加えたガラスを作製した。このガラスはBi2O3を大量に含有し,熱物性において3成分系ガラスよりも優れた性能を有していた。このことは,ビスマス系ガラスが低融点ガラスとして非常に汎用性の高いガラスの基本組成となりうることを示唆している。
ビスマス系ガラスの構造について,Bi2O3がガラスの中心構造である網目構造を形成している可能性が示唆された。ビスマス系ガラスは新しい低融点ガラスの基本組成として非常に有用なガラスであることを見出した。