遠藤 宗幸

自由体積理論に基づいたリン酸塩ガラスの粘性流動機構

松下 和正

ニューガラスというのは高品質、高均質であり、そのガラスを溶融、成形する上で、ガラス融液の物性は製造工程に関わる最も重要な物性の一つである。しかし高温での融液物性の測定は非常に困難であり、報告例は少ない。自由体積理論に基づくと、融液状態の制御因子である粘度は密度の逆数である体積に依存するとされており、ガラスの粘性流動を解明することはガラス製造プロセスの最適化につながる。本研究ではリン酸塩ガラスにおける融液状態の密度、粘度をアルキメデス2球法、白金球等速移動法によってそれぞれ求め、自由体積理論に基づき検討した。また、ガラス転移温度(Tg)を含む固体状態から融液状態までの広い温度範囲における自由体積と粘性流動の関係を考察した。
測定試料は低融点リン酸塩ガラスの代表的な組成である酸化鉛を含むメタリン酸塩ガラス50P2O5−xPbO−(50-x)K2O(x=20~30)を用いた。測定によって得られた密度、粘度はPbO含有量とともに増加した。密度測定結果から体熱膨張係数を算出し、Tg付近の活性化エネルギーと比較したところ、Tgでの急激な粘度の変化は体積変化と関連があると考えられる。
一般的な粘度式は粘度を温度の関数として表しているが、自由体積理論に基づいたDoolittleの粘度式の特徴は粘度を体積の関数として表している。Doolittle 式logη=A+B V0/ Vfを用いて体積と粘度結果の最適化をおこなった結果、全ての組成において粘度とV0/ Vfは直線関係となり、リン酸塩ガラスにおいても自由体積理論が適応可能であることが確認された。また、最適化によって求めたDoolittle式の定数は組成依存を示し、Bは結合強度と、V0はイオン半径と相関があることがわかった。
体積と粘度の関係について考察をおこない、Doolittle式の適応範囲ついて検討したところ、低温から融液状態までの広い温度域にわたって実験値と良く一致した。注目すべき点は体積を関数とした場合、粘度はガラス転移域(logη≒12)で屈曲を示さず、1本の曲線で表すことができる。このことはTgにおける粘度の屈曲と体積変化が対応しており、粘性流動は熱膨張による自由体積変化に起因していることがわかった。