井関 竜也

鉄およびマンガン水酸化物粒子における鉛イオンの優先吸着

佐藤一則

水質中に溶存する有害重金属イオンを優先的に回収する技術が近年、望まれている。広い溶液pH範囲において安定に存在できる鉄水酸化物(Goethite)は、イオン交換反応により水質中の重金属イオンに対して高い吸着能を有している。Goethite粒子の作製法としてはFe(NO3)3から生成したFerrihydriteの溶解・再結晶により作製する方法がある。異種金属を含むGoethite粒子の一つとしてMn-Goethiteの作製を試みた。作製試料に対して、X線回折法による結晶相の同定および格子定数の精密化、比表面積測定、粒子形態の電子顕微鏡観察を行った。作製試料を用いて、水溶液中におけるCu(II)イオン、Pb(II)イオン、およびZn(II)イオンに対する吸着特性に及ぼすマンガン含有量の影響を検討した。
Mn含有量が約15 mol%までの作製試料においては、含有量に比例して収率が低下した。X線回折による格子定数測定結果から、Mn-Goethite粒子に固溶するMn濃度の最大値は約15 mol%であることを示した。Mn含有量が約15 mol%以上においては、Mn-Goethite相以外にMnO2・nH2O相共存することを見いだした。作製試料の比表面積はMn含有量が約15mol%以下では変化はほとんど無かったが、約15 mol%以上において比表面積が顕著に増大した。透過電子顕微鏡観察から、Mn含有量が約15 mol%以上の作製粒子にはMnO2・nH2Oの微細粒子がMn-Goethite粒子と共存することを明らかにした。
Pb(II)イオンの吸着量は溶液pH値の増大とともに増加した。作製試料におけるMn含有量の増大にともない、Pb(II) イオン吸着量が増加した。Cu(II)イオンの吸着量も溶液pH値の増大とともに増加したが、作製試料におけるMn含有量の影響はpH値が約5まではほとんどなく、このpH値以上においてMn含有量の増大にともない、わずかにCu(II)イオン吸着量が増した。一方、Zn(II)イオンの吸着量に対する溶液pH値のおよび作製試料におけるMn含有量の影響はほとんどなかった。以上の結果は、Mn-Goethite粒子およびMnO2・nH2O微粒子がPb(II) イオンに対して優先的な吸着能をもつことを示し、この優先吸着に対する粒子表面電場の影響について考察を行った。