真部良章
変異原性試験を用いた都市水循環系の水質評価 - 道路排水の再生利用に向けて-
小松俊哉,藤田昌一,姫野修司
都市域の自力的で持続可能な水資源の確保を目指すために,道路排水が含まれる雨水を地下へ通水された涵養地下水の循環的利用が有効であると考える。しかし,水利用を想定した時点でその水質が問題となってくる。本研究では,涵養地下水の最終的な利用用途を水道原水と期待していること,より安全側での評価が求められることから,水質リスクを総括的に評価するため,Ames変異原性試験を用いて,変異原性生成能(以下MFP)により有害性評価を行なった。
まず,相対的評価基準となる全国一級河川水調査を行ない,次に,土壌への通水試料として検討する雨天時道路排水の実態調査を行なった。その後,土壌カラムを用いて涵養地下水を再現し,約1ヶ月間の連続運転によって,道路排水のMFP等の挙動を確認した。最終的には,涵養地下水のリスクレベルを全国一級河川水と相対的に評価することにより,そのMFPレベルの位置付けを明確にすることを目的とした。
土壌カラム試験では,内径100 mm,長さ500 mmのアクリル管に高さ300 mmになるように土壌を充填した。実験系列は5つ設け,長岡市内より採取した3種類の土壌を各カラムに充填し,再現性をみるために同じカラムを一つの土壌において作成し,また,BLANKとして純水を通水する実験系列も設けた。相対的基準となる全国河川水は,全国の一級河川を対象とし,各地方地区より流域面積順が均等になるように4河川選出した。また,モデル河川として多摩川からの採水も行ない,合計38河川42試料を評価基準とした。
土壌カラム通水試料のMFPは,約15000 net rev./L(以下単位省略)であり,再現性を確認した実験系列をみると,運転31日目のMFPは約1500となっており,通水試料の10分の1,全国河川水の23 %値程度まで低減されることが明らかとなった。他の実験系列をみると,雨水ます堆積土壌を充填土壌とした実験系列以外は,DOC,E260,NH4-Nの除去が確認できた。
さらに,土壌カラムは溶存性有機物質よりも変異原性前駆物質の除去効果に優れており,DOCあたりのMFPを比較した場合,道路排水の1120,全国河川水の880に比べ,土壌カラム流出水は320まで低減されていることが明らかとなった。
以上のことより,土壌による浸透作用は,溶存性有機物質中の変異原性前駆物質の除去に適していることが示唆され,水道原水として利用されている全国一級河川水のMFPレベル程度まで低減されることが明らかとなった。